第12話 雪の夜

 白い雪が舞い散る夜は、出会いを思い出す。


「こんな関係になるとは思わなかったね~」

 時折、彼女はそんなことを言う。

 僕もそうだ。

 こんな関係って…。

 そう…友達でもない…恋人とも思えない…嬢でも客でもない…。

 どう呼ぶのだろう…。


 曖昧にも感じる。

 歯痒くもある。


 愛している…恋人になりたい…。

 そんなことを言えれば…どんなに楽になれるだろう。

 なぜ…言えないのだろう…。


 クリスマスに、僕の誕生日…。

 12月には恋人らしい日が過ごせる理由はあるのに…。

 一番になれない…僕には関係の無い話だ。


『特別な日』…僕には、そんな日はない…。

 だから考えない。

 切なく…哀しくなるから…。


『愛してる』といえば『愛される』のか?

 そもそも…『愛』ってなんだろう…。

 彼女の邪魔をしないことが『愛』なのかもしれない。

 少なくとも、僕にとっての『愛』は、必然的にそうなっているようにも思う。

 彼女の負担になれば…彼女の気持ちは離れるだろう…。


 我儘を言えるのが『愛』か…。

 それを許すのも『愛』か…。


『愛』とは…辛さを感じずに献身に徹することなのだろうか…。


 求めれば哀しく…求めねば切ない…。


 視えぬものを信じる…殉教者のような魂を持たねばならないのが、僕の『愛』。

 救われるのかい…僕の魂は…。


 触れたいよ…その髪に…唇に…身体に…。

 そして…彼女の心に…。


 好きなだけじゃ…伝えられないよ…。

 無責任な好意で行動できるような歳じゃない。


 逢いたい…逢えない…せめて…特別な日くらい…傍にいてほしい…。

 そんなことすら…叶わない…。


 黒い空から、白い雪が降る…。

 黒い地面を白く覆う…。


 汚い色も…綺麗な景色も…すべてを白に変えていく…。

 Snow…その白の下には何を隠す…。

 僕の醜い容姿も…汚れた心も…白く…白く染めて欲しい…隠してほしい…。


 身体に触れる雪は…冷たく…やがて痛みを感じるほどに肌に突き刺さる。

 優しくは無い…冷たく…痛く…僕の身体から熱を奪う…。


 いっそ…このまま…白く埋もれて…消えてしまいたい…。

 冷たくなっていく身体に…雪は積もる…。

 最初は肌に触れると溶けていく雪…涙のように…。

 身体全体で泣いているように…身体を濡らす。

 やがて、熱を奪い尽くすと…雪は身体に積もりだす。

 抜け殻を隠すように…。


 雪の夜…彼女のことを想う。

 出会った日から…記憶を辿る…。

 僕は寒い冬に…震える子猫彼女を車に乗せた…。

 いつしか、子猫は…僕の心に住まう…。


 いつかは…失うのだろうか…。

 僕は、その哀しみに耐えられそうにない…だから…失う前に…。

 白く…白く…染められた夜…。

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