第10話 願い方すら…

 もし…僕の願いが叶うなら…。

 どう願う…。


『彼女の心を僕に向けてください』

『彼女を満足させるだけの財をください』

『彼女に僕の気持ちを伝えてください』


 どれも違う。


 強制的に向けても…

 金がいくらあっても…

 伝えたところで…


 そう…僕は、結局願うことすら…願い方すら解らない。


 何を得ればいい…

 何を求めればいい…

 何を差し出せばいい…

 何を失えばいい………これ以上。


 欲しいものは…彼女なのか…。

 身体…心…言葉にするとズレてくる。


 欲しいモノは…きっと未来…。


 結局…僕は、自分だけのことを考えている…。

 彼女の幸せを願う。

 願いを突き詰めれば…自分の幸せを望んでいるだけなのかもしれない。


 彼女のことを、それだけ知らないのだ…。


『愛』なんて…僕にあるのだろうか…。


 幾度か…彼女と逢うことを止めようとした…。

 その度に、彼女は嫌だと言った。

 どんなに無視されても、嫌われても、連絡し続けるよ。


「愛されているのだろうか」

 その証が欲しい。


『愛』を知らないとしたら…『愛』を感じることはできるのだろうか?


 自惚れるな…そう言い聞かせる。

 酔うな…そう諌める。


 普通の恋愛って、どんなだろう…。


 ひとり、街で恋人たちを眺める。

 幸せなんだろうか…楽しいのだろうか…。

 聞いてみたい。

「幸せですか?」


 掲示板で時折、目にする。

「風俗嬢と付き合いたい」

 僕は…風俗嬢と付き合いたいわけではない。

 心、惹かれた人が風俗嬢だっただけだ。


 コイツラは知っているのだろうか…。

 偉そうな意見を書き込む輩…したり顔で誹謗中傷する輩。


 他人に抱かせるために送りだす気持ちを…。

 行きたくない…と抱きつく嬢の想いを…。


 金で割り切れなきゃ…出来るわけないだろう。

 心を壊さなきゃ続けられないだろう。


 抱き合うことで互いの傷を重ね・・・痛みを確認する。


 彼女は『愛』を口にしない。

 向けられても頷くだけ…。


 ただ…頷くだけ…。

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