人類は危機にあり

銀狼

1.「人類は危機にあり」

「大変ですよー!大変ですよー!」

 ただっ広い荒野の真ん中で、プラカードを掲げた少女がわめいている。周囲には、砂と、岩と、枯れかけた草だけ。

「大変ですよー!」

 太陽に向かって、少女はプラカードを左右に振って訴えかける。

「大変なんですよー!人類の危機ですよー!」

 すると、どこからともなく男が現れて、言った。

「君、何が大変なんだ?」

 少女は、くるりと男の方を向くと、プラカードの文字を指差して答えた。

「大変なんです!人類の危機です!」

 男はプラカードの言葉を読み上げた。

「『水と食料が無い』か。それはたしかに大変だ」

「そうなんです。人類の危機です!」

 男は少し笑って、

「人類じゃない、君の危機だろう?」

 と言った。すると、

「いいえ、人類の危機です」

 と真面目な顔で少女が答えるので、男は少し考えて問うた。

「君、よくわからないな。僕は水も、食料も持っている。ええと、君はどちらも持っていないんだな?」

「はい」

「では君は、自分が水と食料を持っていない、というだけで『人類の危機』だと言うのかい?」

 男がそう言うと、少女は不思議そうな顔をして答えた。


「私も人類ですよ?」


 男は目を閉じてしばらく考え込んだ。そしておもむろに、少女に自分の持っていたパンと水筒を差し出したのだった。

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