wind - wind

青砥 瞳

第1話  wind - wind 1

雨で濡れた坂道をのぼる

湿度が高くて 汗が皮膚をおおって うっとおしい

汗がポタポタ流れ落ちてくれればいいのに


やっと着いた時には ペットボトルの水がなくなっていた


鍵がかかっていない玄関の扉を開けると

思った以上に建物の中は荒れている


かび臭くて 窓が埃で白くなっている

懐かしいにおいがするよう


ドアノブが壊れているトイレ

白かったはずの便座が ほとんど黄色に変色している


イタズラ書きされた壁 ”fuck you!"


ポツン ポトッ ポツン ポトッ・・・雨?

そうじゃないわ

朝までの雨が天井にたまっていて 落ちてくる


”こっちにおいで”


聞こえるはずのない声

振り向いても当然 誰もいない


ギシギシ音がする階段をのぼると

2階にバスルームがある


大きなバスタブ 壁のタイルにはヒビが入り

所々かけていて 下におちている


アルミの白い洗面器 茶色が目立つ鏡

横になった いくつかの水差し



”こっちにおいで”


片側が外れた窓に近づくと そこから見えるのは 風に揺れてる緑の葉

雨で濡れたから サヤサヤ軽い音がするわけではない


もう片方の窓を外側に開けて 葉を掴もうと身を乗り出すと

強い風で枝が揺れ 雫が顔にかかる


昔 誰かが使っていた 黒いダイヤル式の電話 外されたコード


確かに 誰かが居た場所


朽ちて 所々反り返った床とかびの臭い

陽射しを受ける 緑の葉


ああ、時間は残酷ね 

過去を忘れようとしてもそうさせてくれないのに 戻すことも出来ないなんて

かといって 先のことを見ることも出来ないなんて






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る