第50話 山火事

心地よい眠りを破ったのは、夜の静寂しじまに鳴り渡るサイレンだった。


「ん~、何……?」


まだ眠気を含んだ瞼をこすって、部屋を見回したけど、隣に寝ていたはずの本宮君がいない。


「……本宮君?」


まだぼやける頭で部屋を出て、廊下に出る。


すると、本宮君がウメさんに話しかけているところだった。


「何があったんですか?」


「それが……山の方で火事があったらしいんじゃ!」


え……山火事!?


「火の気の立たない所だから、誰かが放火したんじゃないかと言われている」


殺人の次は、放火!?何で、こんな次から次へと事件が起きるの……!?


「本宮君!」


「あら、起きたの?」


いやいや、さすがに起きるよ、私だって!


「ちょっと見に行くわ」


そう言うと、本宮君は部屋に戻り、羽織ものを羽織ると、再び部屋を出る。


私達は急いで、火事の起こっている山へと向かった。


「ひどい……!」


そこに着くと、夜の闇を吸った薄暗い山を真っ赤に燃え盛る炎が、焼いている。


「雅明様や菖蒲様が、あんなことになったっていうのに、今度は山火事なんて……!」


「やっぱり、こりゃあ祟りじゃ!温羅の祟りじゃ!」


赤々と燃える山を見ながら、島民らしき人達が、そんなことを言っていた。


また、温羅家の祟り、か。


祟りで、こんなこと起こるわけが……。


そう思いながら、ふと視線を移した先で、火事を見に来た島民達の中に、麻子さんの姿を見つけた。彼女は、ただ黙って、炎に包まれた山を見つめている。


「麻子さ……」


声を掛け、近づこうとした時、彼女の姿は、すうと人混みの中へ消えていった。


「本宮君、今、麻子さんがいたよ!」


「麻子さんが?」


辺りを見回す本宮君に、私は言った。


「もう、人混みに紛れて見えなくなっちゃったけど」


「……」


その後、1時間程で山火事は消火され、集まっていた島民達が少しずつ家へと帰っていく。私と本宮君も、吉備の邸宅に戻った。


部屋に戻った後も、本宮君は何かを考えるような表情で、窓辺の椅子に一人座っていたけど、私は押し寄せる眠気に勝てず、いつの間にか眠りについていた。

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