第49話 ドキドキするのは、私だけ?
「はぁ……」
本宮君がオネエだって知らない麻子さんに、ため息が漏れる。全く知らない人から見ると、私と本宮君はそういう風に見えるのかと複雑な気持ちになった。
まあ、それはいいとして。
やっぱり吉備家と温羅家の関係って複雑だな……。犯人は、やっぱり行方不明の義明さんなんだろうか?
部屋に戻ったけど、本宮君はまだ温泉から戻って来ていない。
昨夜と同じく、和室の部屋には布団が二つ敷かれている。私はスマホをカバンから取り出すと、一つの布団にうつ伏せに寝転がった。
そして、この島に来てから撮った写真を見始める。30分くらいして、本宮君が部屋に戻って来た。
「お帰りー」
私は布団に寝転がったまま、本宮君に言う。
「やっぱり、温泉はいいわね~。湯上がりの肌のハリが違うわ~」
背中越しに振り返って見ると、確かに普段から綺麗な彼の肌が一層輝いて見えた。
「何してるの?」
そう言うと、本宮君は、私の方にゆっくりと近づいてきて、布団に寝転がっている私の隣に屈んで片腕をつく。
「……っ」
不意に至近距離に、彼を感じて、どくんと心臓が跳ねた。上がりたての、まだ少し濡れた黒髪から、シャンプーの香りが仄かに漂ってくる。
「こ……ここで撮った写真、見てるとこ」
私は高鳴る鼓動を押さえようと、スマホの画面を高速でスワイプした。
「ちょっとぉ、そんなに早く動かしたら、写真がよく見れないじゃないっ」
そう言って、本宮君の手が、私の手を止める。
「……っ」
そのせいで、余計に胸の鼓動が激しくなった。
不意に、さっきの麻子さんの言葉が頭を過る。
『本宮様みたいな恋人がいて』
「あ、あの、本宮君……私……っ」
震える鼓動を胸に、私が言い掛けた時。
「何よ、これっ」
「え?」
本宮君が怒った声を上げる。
「この写真、アタシの顔だけ、半分切れてるじゃないの!」
画面を見ると、至近距離で、スマホをこちらに向けて撮った二人の写真が、本宮君の顔だけ半分切れていた。
「あれ?ごめん、ごめん!」
「まったく、アンタは雑な女ねっ」
好きな人の写真も、まともに撮せない私って……。がさつにも、程があるよね。
軽い自己嫌悪に陥ってると、本宮君が言った。
「それにしても、この写真、アンタ厚着してるわね」
自分だけバッチリ綺麗に撮ってある、写真の私を彼が指差す。
「ああ、これはね」
私は、スワイプして、それより数枚前の写真に戻った。
「あの大洞窟から出て来て、すぐに撮った写真だからだよ」
スマホの画面には、伝説で、鬼達が住んでいたとされる洞窟を撮した写真が表示されている。鬼達は、時にさらってきた人間をここに閉じ込めていたらしい。
「夏の日差しで、外は焼けるように暑いのに、この洞窟の中って、冷蔵庫に入ったみたいに、ヒンヤリしてたじゃない?ノースリーブじゃ寒くて、ここに行った時はカーディガン羽織ってたから」
「そう言えば、そうだったわね」
私の説明に、本宮君は納得した後、私の手からスマホをそっと取り上げる。
「ハイ、写真鑑賞は、ここまで。いろんな所を飛び回って、疲れてるでしょ?夜更かしは、お肌の敵よ。もう寝なさい」
そう言って、本宮君は私の頭をポンと優しく叩いた。
(ほんとは、ちょっと眠かったけど、本宮君が戻るの待ってたんだもん)
心の中だけで呟く。
「じゃあ、おやすみ」
そう言って、私は掛け布団を引き上げると、目を閉じた。
いったん目を瞑ると、疲れが身体中に広がって、深い眠りの底に落ちていく……。
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