第47話 新たな証言
それから、島のいろいろな所を回ったけど。義明さんの姿を見ることも、有力な情報もないまま時間が過ぎていく。いつの間にか、海の向こうに、夕陽が落ち始めていた。
「こんなに探しても、見つからないなんて……」
さすがに疲れて、私は浜辺に腰を下ろす。
「一体、どこにいるんだろう?」
村岡刑事の話によると、山も海辺も捜索したにも関わらず、義明さんは見つからないらしい。島を出て行ったのかもしれないということで、フェリーの乗船客の情報も調べたけど、義明さんらしき人が、島を出た形跡はないという。
「こんなに探してもいないなんて。まるで神隠しにでもあったみたいだね」
「泳いで本土に渡るのは不可能。フェリーに乗船した形跡がない以上、必ず島のどこかにいるはずよ」
隣の本宮君が言った。
「陽も落ちてきたし、今日は戻りましょ」
本宮君の言葉に、私達は吉備家に戻ることにする。
邸宅に帰ると、雅明君に続き菖蒲さんまで犠牲になったとあって、一層物々しい空気が漂っていた。
「雅明君……うっ……うっ……」
ロビーのソファで、佐々木麗奈が泣き崩れている。
「何で、お前がそこまで泣くんだよ!」
隣の武本竜二が苛立ちながら言う。
佐々木麗奈の告白を思い出した。生前の雅明君と彼女は密かに会っている。何で彼女が泣くのか理由が分からないってことは……武本 竜二は、二人が会ってたことを知らないんじゃ?
もしかして、雅明君を殺したのは竜二かもって、佐々木 麗奈は言ってたけど、もし二人のことを知らないなら、武本 竜二が雅明君を殺す動機がないよね?
それに、雅明君だけならまだしも、菖蒲さんまで殺す意味が分からないし……。
「武本君、ちょっといいかな」
「何だよ?」
本宮君の呼び掛けに、武本竜二が鋭い目付きで見上げて来た。
「向こうで、話せないかな?」
隣で泣く佐々木麗奈をちらりと見た後、武本 竜二は渋々ソファから立ち上がる。
そして、私達は佐々木麗奈のいるソファから離れた。
「武本君。君は三日前の夜遅く、この旅館から外に出ているね?」
「はぁ?」
「この連続殺人事件は、この旅館の敷地内にある宝物庫から盗まれた弓矢が使われている。それが盗まれたのが、今から三日前の夜だと思われるんだ」
武本 竜二の顔が険しくなる。
「お前、俺が殺人犯だと思ってんのかよ!?」
「そうじゃない。話を聞いているだけだよ」
「ただ、急に波に乗りたくなったから海行っただけだ!悪いかよ!?」
「その夜、他の誰かを見かけなかった?」
「他の……?」
本宮君の問いかけに、武本竜二が少し考えるような表情をする。
「そう言えば……」
武本竜二が続けた。
「俺の帰りが遅いって、旅館のばあさんが心配して待っててくれたらしくて。俺が旅館に戻った時、ばあさんが裏口の鍵を開けてくれて、中に入れてもらったんだけど。その時に……」
思い出すような表情で、彼が言う。
「誰かが庭を走っていくのが見えたんだよ」
「その人物の特徴は!?服装とか、持ってた物とか……!」
興奮して聞き込む私に、武本竜二は苛立ったように答えた。
「この辺灯りもねーし、夜の暗さがハンパなくて、細かいとこまで見えねーよ!」
「分かったよ。ありがとう。彼女のところに戻っていいよ」
本宮君の言葉に、武本竜二は軽く舌打ちした後、佐々木麗奈のところへ戻っていく。
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