第42話 疑惑

神社を離れ、吉備家の方に戻りながら、私は言った。


「海で泳いでるどころじゃなくなったね」


「そうね」


「雅明君、昨日まで、あんなに元気だったのに……」


「吉備家に戻って、菖蒲さんに聞きたいことがあるわ。昨日会えなかった義明さんにも会えるかもしれないし」


「うん……」


そして、二人で吉備家に向かっている途中で、佐々木麗奈と出会う。


「こんな朝早くに、何してるの?」


そう言うと、佐々木麗奈は私のところに駆け寄った。


「雅明君が死んじゃったこと、アンタ達知ってる!?」


「ええ、知ってるけど……」


「そのことで話したいことがあるの!旅館に戻らないで、どこか外で聞いてくれる?」


「ええ、いいわよ」


そう言った佐々木麗奈は、何かに怯えるような表情をしている。私達三人は、浜辺の方に移動した。


「雅明君のことなんだけど……」


一瞬だけ躊躇った後、彼女は言う。


「殺したのは、竜二かもしれない」


「……え!?どういうこと!?」


「実は、あたし……雅明君と一緒に京都に戻るつもりだったんだ」


「雅明君と一緒にって……だって、あなた武本竜二と付き合ってるんじゃないの?」


「そうだけど……あたし、ほんとは、もう竜二のこと好きじゃないんだよね。今回の旅行も、竜二が強引に誘ってきたから、付いてきただけ」


佐々木麗奈はうつ向いた。


「旅館の廊下でお母さんと言い合いしてる雅明君を見かけて……。何となく力になってあげたいなと思って、竜二が海でサーフィンしてる時に、こっそり二人で会ってたんだ。それで二人で話してるうちに、一緒に島を出たいって、雅明君が言い出して……」


滞在期間からいって、そんなに雅明君と会うこともなかったはずなのに、そんな話になっちゃうのか。若いから、かなぁ……。


「竜二はいい奴だけど、キレると何するか分からないとこがあるの。こっそり会ってるつもりだったけど、私と雅明君が会ってるところを見て、キレて、雅明君を殺しちゃったんじゃないかな?」


佐々木麗奈の話に、本宮君が言った。


「君は知らないかもしれないが、雅明君の殺され方からみて、その犯人は、吉備家の神具を盗んだ犯人でもあるんだ。竜二君が、わざわざ神具を盗んで殺すのは、どうだろう?」


「吉備家の弓とかお面が盗られたのは、雅明君から聞いて知ってるよ。それで、その弓とかがないって騒いでた朝の前の日の夜……。実は、竜二、外出してたんだ!」


「それは、間違いない?」


本宮君が聞く。


「うん!海に行ってくるって言って、夜遅くに一人で出て行ったんだ。その時、盗んだんじゃないかな?」


「……そうか、いろいろ情報をありがとう。また竜二君のことで不審なことがあったら、こっそり教えてくれないかな?」


「うん、分かったよ……。じゃあ、私戻るね」


そう言って、佐々木麗奈は去って行った。


「アタシ達も、とりあえず戻りましょう」


本宮君の言葉に、私は頷く。

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