鬼無島殺人事件(後編)

第41話 第一の犠牲者

そして、翌日。明け方の6時過ぎ。吉備家の邸宅内が、何か騒がしい。


「何かしら?」


私より先に起きた本宮君が、部屋の向こうを見ながら言う。


「う~ん……何かあったのかなぁ?」


まだ眠気の取れない瞼を擦りながら、私も言った。


「ちょっと見に行ってみない?」


「うん」


本宮君と私は部屋を出ると、騒ぎの聞こえる方へと走っていく。


すると、着物姿の菖蒲さんが泣き崩れているのが見えた。


「どうしたんですか、菖蒲さん!?」


菖蒲さんに駆け寄ると、嗚咽しながら彼女が言う。


「雅明が……雅明がぁぁ……!!」


そのまま激しく泣き出してしまい、その先を聞くことが出来ない。


後ろに、麻子さんがいるのに気づいて、本宮君が彼女に聞いた。


「麻子さん。一体、何があったのですか?」


麻子さんは青ざめた顔で、答える。


「雅明様が……今朝、吉備神社の境内で殺されているのが発見されました……」


「え!?雅明君が!?」


本宮君と私は、同時に驚いた。


「朝、参拝に訪れた島民が発見したそうです……」


何てことだろう……!盗難事件だけなら、まだしも、殺人事件が起こるなんて……!


「着替えてから、吉備神社に行ってみよう」


隣で本宮君が言ったかと思うと、本宮君は部屋に向かって駆け出した。


「あ……待ってよ、本宮君!」


私も慌てて、彼の背中を追いかける。部屋に戻ると、急いで浴衣から服に着替え、昨日も行った吉備神社へと向かった。神社には、たくさんの人だかりが出来ていた。


「ちょっと、すみません!」


その人込みを掻き分けて、石段を駆けあがり、境内を見回すと。


「……!!」


うつ伏せで倒れている雅明君がいた。


背中から、白羽の矢が深く突き刺さっている。その矢には、黒墨で文字が書かれた和紙も打ち付けられていた。


その和紙に書かれていたのは……。


『鬼を一つ討ち取ったり 神の御使い』


「これって、吉備家の庭にあったのと同じじゃない!」


和紙に黒墨の筆で書かれてて……それから、神の御使いっていうサイン。


叫んだ私の隣で、本宮君が屈んで、雅明君の死体を見た。


「同じ殺し方ね」


「えっ?」


「鬼無島に伝わる、吉備家の人間が鬼を討ち取った方法と」


そう言えば……伝説でも、吉備家の祖先が、鬼を白羽の矢で討ったって言ってた!


「だとするなら、宝物庫の神具が盗まれたのは……殺人のため」


……!人を殺すために、神具を盗むなんて!


「紙に書かれた文章と、吉備家の長男である雅明君を狙ったことを考えると、何か鬼無の鬼伝説に関係しているのかもしれない」


本宮君の言葉に、ふと昨日のウメさんの話が頭を過る。


島崎の本当の名は、温羅うら


それは鬼の血筋だという。


まさか、麻子さんやウメさんが犯人なんじゃ?


「はい、危ないから、どいてどいて!」


不意に、背後から声がしたかと思うと、制服を着た40代くらいのお巡りさんが、こっちに向かってやって来る。


「おい、そこ、何やってんだ!」


私達を見て、お巡りさんが怒った。


「こら、こら!後で県警の人達が来るんだから!遺体に触らないで!」


私達は雅明君から離れる。


「アンタ達、見慣れない顔だな。観光客か?」


「私達は、吉備家に依頼されて、神具の盗難事件の調査をしていた本宮忍と申します」


本宮君がそう答えると、お巡りさんの態度が一気に変わった。


「こ、これは、失礼しました!吉備家の御客人でしたか」


いきなり丁寧な扱いになる。


「遺体の発見状況は?」


本宮君に聞かれると、彼は、すんなりと答えた。


「島の漁師が、朝5時半頃、吉備神社の参拝に来た時に、雅明様の遺体を発見したそうです。その時、周りに不審な人物や車などはなかったということです」


「そうですか」


「詳しいことは、県警の方で調べてみないと分かりませんね」


「いったん、神社を出ようか」


「うん」


本宮君に言われて、私は頷く。

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