第28話 事件の真相
「田所賢也は、爆破事件の犯人じゃありません」
ドアの向こうから現れた人物は、そう言った。
その人物は……。
(本宮君!)
ずっと戻ることを祈っていた本宮君だった。
「あんた、誰だ?」
田所賢也を取り押さえていた保安官達が、不信な目付きで本宮君を見る。
そんな彼らに、落ち着いた声で本宮君が答えた。
「私は、クイーンメリー号の爆破予告に関して、密かに調査していた探偵です」
「探偵?」
「田所賢也が、船に持ち込んだ物……それは」
そこまで言った本宮君は、ところどころ黒く汚れた紙袋を掲げる。
「これです」
「……!?」
その紙袋から、何か白い煙が上っていた。
「ば、爆弾!?」
デッキにいる全員に、緊張が走る。
でも、本宮君は冷静に紙袋の中味を取り出した。
「こ、これは……!?」
それは……箱の中に入れられたドライアイス。
(なんだ、煙って……ドライアイスから出てた物だったんだ!)
「ドライアイス?何で、そんな物を……?」
意味が分からないといった様子の保安官に、今度は田所賢也が答える。
「騒ぎを起こして、クイーンメリー号を混乱させたかった!娘に一生の傷を負わせた、この船を……!」
田所は悔しそうに唇を噛んだ。
「この紙袋は、Cデッキの男性用の洗面台の下に置かれていました。調べれば、田所賢也の指紋が出てくるはずです。火災で燃える前に、回収しておきました」
じゃあ、本宮君は、田所の持っていた、その紙袋を探しに船内に戻っていったんだ。
彼が、爆弾犯じゃないことを証明するために……。
「じゃあ、爆破予告を送り、実際に爆弾を仕掛けたのは?」
保安官の問いかけに、本宮君がある人物を指差して答える。
「実際に、爆弾を仕掛けた人物。それは……芹沢直人!」
その場にいたみんなが、驚きの表情で、一斉に芹沢さんの方を見た。
「このクイーンメリー号のディナークルーズの最大のビューポイントは、明石海峡大橋の側まで来た時です。その時、乗船客は皆、外のデッキから橋のイルミネーションを見ようと、最上階のAデッキの外に出ます。そのタイミングに合わせて、一般客は立ち入り禁止区域になっているDデッキに爆弾を仕掛けたんです」
そうだったんだ……!だから、あのタイミングで爆発が起きたんだ!
「実際に爆弾を仕掛けたのは、女優の渡部エリカ達が、Bデッキのレストランで騒ぎを起こしている間。それまで、私は芹沢直人をそれとなく監視していましたが、その騒ぎの時、彼を見失ってしまった……。その時に、彼は密かにDデッキに下りて、爆弾を仕掛けたのだと思います」
え……!?
じゃあ、本宮君が見張っていた本当の人物は……。
芹沢さんだったのね……!
さらに本宮君は続ける。
「実際に爆弾を仕掛けたのは芹沢君ですが、事件の背景は、もっと複雑です。私は、クイーンメリー号の爆破予告の依頼を受けてから、船に関する情報を調べているうちに、あることに気づきました。それは……約一ヶ月前、ライフジャケットが大量に発注されていたことです」
すると、ずっと黙っていた三谷船長が焦ったように叫んだ。
「そ、それは……クイーンメリー号への爆破予告が来たので、万一に備えて購入を……!」
「違いますね」
三谷船長の訴えを本宮君が、遮る。
「それは、ありえません。なぜなら……」
本宮君は、三谷船長を鋭い視線で射抜きながら言った。
「クイーンメリー号の爆破予告が会社に届いたのは、予告日の二週間前。だが、ライフジャケットの発注がかけられたのは、予告日の一ヶ月前。つまり、まだ、この時、爆破予告を知らないはずなんです」
そんな……!?じゃあ、予告を受けるより以前に、爆弾が仕掛けられることを知ってたっていうこと!?
「それに気づいた私は、不信に思い、密かにクイーンメリー号に関する情報をさらに調べていきました。そして、さらに不自然な点に気づきました」
「何だ、その不自然な点というのは?」
保安官の問いかけに、本宮君が答える。
「約二ヶ月前……クイーンメリー号にかけられている船舶保険額が、大幅に引き上げられていたのです」
「な、何だって……!?」
本宮君の衝撃的な言葉に、保安官が驚きを隠せず叫んだ。
「あの有名なタイタニック号の沈没には、いまだに多くの謎が残っています。そのため、なぜ沈没したかの説の一つに、恐ろしい説があります。それは……タイタニック号を所有していたホワイトスターラインが事故を装って、あえてタイタニックを沈めたというものです」
本宮君が、静かな怒りを込めて言う。
「船にかけられた保険金を受け取るために」
「な……っ!?」
その場にいた乗客達が息を飲んだ。
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