ミステリーハント

楠秋生

第1話

 受験生にクリスマスなんか関係ない。


 クリスマスイブ。世間は浮かれ騒ぎのこの日。終業式が終わった俺はさっさと自宅へ帰った。

 親父は出張、二人の姉はデート。きっと今晩は帰らないだろう。俺にだって友達からクリスマスパーティーやコンパの誘いがなかったわけじゃないけれど。

 こんな時期に志望校のランクをあげて余裕のない俺には縁のない話だ。昼飯を食ったら志望校の過去問をやらないと。

 そんな俺が、どうしてその封筒に興味をもったかというと。


 そこに書かれた文字が、三年前に亡くなった母さんの字だったからだ。

 

 いつものように郵便物を持って入り、テーブルの上で仕分けした中にそれはあった。請求書類、通信販売の雑誌類、親父宛、姉宛。そして――俺宛のその手紙。切手はなく、直接郵便受けに入れたようだ。 

 封を開けると出てきたのは縁がレース模様にカットされた淡いピンクのメッセージカード。このカードにも見覚えがある。彼女のお気に入りで、誕生日やクリスマスにはいつもプレゼントにメッセージをつけてくれていた物と同じだ。


 そしてそこに綴られていたのは――。


『   XISEHUOTIEKOT

     逆立ちして1引いてね      』


 ……これを俺に解けというのか。受験直前の俺に。

 これを書いたのは明らかに母さんだ。だけど、ポストに入れたのは勿論彼女ではない。こんなことをするのは……心辺りがないわけじゃない。

 姉さん肌でいつもポンポン言いたい放題に言ってくる幼馴染、里奈の顔が浮かぶ。あいつはこういうのが結構好きだから。

 けれどその心は? つきあっているわけでもなく、最近では話をする機会もめっきり減っているというのに。

 しばらくそのカードを眺めて考えていた俺は、おもむろに脱ぎかけていたコートのボタンをもう一度かけてマフラーを巻きなおした。


 しょうがない、つきあってやるか。


 カードをポケットに入れて家を出る。

 ちょろっと謎解きをして頭の体操をするくらいに思っていたのに。今日はもう勉強は無理だな。 

 そう思いながらも頬がゆるんでしまう。

 イブにこれを解かせるってことは、やっぱアレだよな。……いや、一人で過ごす俺を憐れんでか? なんにしても、彼女と会えるのは嬉しい。

 気が急いて自然と足が速くなってしまうのはしかたないだろう? 

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