山のこと

たまに呼ばれた気がするのだ

遠くに見える山の深い緑色にどうしようもなく惹かれて、いつもなら三十分漕いだだけで疲れる自転車を、気づけば一時間近く走らせる

行かなければならないという焦燥感に襲われて、どこまでも行くことができるような感覚に襲われて

運動するとすぐに焼けるような痛みを発する喉が、どんなに荒く呼吸をしても平時と変わらない

愉快さはなく、苦しさもなく、ただ彼処へ行かねばという思いで走り続ける

そして途中の景色を見て、ここまでの来たかと考える

我に返る

帰らなければと思い戻る道は、なぜあんなに何もかもが軽かったのだろうかと思うほど長く面白くない

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