第8話 転校3日目(水曜日)
「むー」
転校して3日目の昼休み。ヒアリは未だにツキエとまともな会話が出来ておらず、モヤモヤする日々が続いていた。転校したらクラスの全員と仲良くなることにしていた。友達になり、友達を作り、友達を作る。これがヒアリの絶対的な信条だった。それが果たせていないのだ。
「……なんであたしまで」
それはいいとしてもなぜかエリミまで付き合わされていて、二人で学校内でツキエの後をつけるなんてことをしている。
「まだツキエちゃんと仲良くなれてない。なんとかきっかけをつかみたいんだよ」
「ほんと、友達をつくることにこだわりがあるのね」
「みんなと仲良くならないと嫌だよ」
「無理してまでやること?」
友達づくりに強烈なこだわりを持つヒアリの信条にエリミはいまいちピンときていない。しかし、一方で気になることもある。
「でも、たしかに気になるのよね。ツキエって去年も同じクラスでそこそこ会話とかしていたけど、今週は明らかにおかしいのよ。ちっこくて子供っぽいけど口調とかは丁寧で礼儀正しい感じだったのに、今週は……えーとなんていえばいいのか、こうやさぐれているとか、疲れ切っているというか」
「前はあんな感じじゃなかったんだ?」
「先週まではいつもどおりだったはずよ。どうかしたのかな――はっもしかして……ブツブツブツブツブツ」
エリミの病気と言ってもいい思案癖が始まってしまったので、とりあえずヒアリはツキエに対する尾行を優先する。
しばらくすると、階段を登り始めた。しかし、その足は妙にふらついていてくたびれている感じで危なっかしい。
そう思った矢先、ツキエは足を踏み外して――
「あぶないっ!」
ヒアリは反射的に飛び出した。すぐさま地面に衝突しないように抱きかかえてクッションになるとする。
しかし、態勢が上手く取れずお互い顔と顔が向かい合う形になってしまい――
二人の顔面が衝突し、ガッと鈍い音が廊下に響いた。そして廊下に倒れ込む。
「ちょっと大丈夫!?」
それを見たエリミが慌てて駆け寄ってきたが、ヒアリは悶絶して言葉が出せない。顔面がぶつかったときにお互いの口――というは歯が衝突して脳天まで突き刺さる痛みが走っていたからだ。
「むおおおおおおお……」
しばらくして苦悶の声ぐらい出せるようになったが、相変わらず顔を手で抑えて廊下を転がりまわっているのでエリミは抱きかかえてやると、
「大丈夫よ、見た目怪我とかはない。念のため保健室行っとく?」
「いや多分大丈夫……」
ようやく痛みが引いてきたので自分の身体に異常がないか確認しつつ立ち上がった。
「すみません。怪我はなかったですか」
ここで先に立ち上がっていたツキエがペコリと頭を下げていた。ヒアリも笑顔で手を振って、
「ううん、大丈夫だよ。そっちは?」
「問題ありません。ありがとうございました。失礼します」
ツキエは短い言葉だけ残し、すぐさまその場を離れていく。が、その去り際に、
「そういえばここを通ると転びそうになることを忘れていました。このパターンは初めてですね」
「?」
ヒアリはその言葉を理解できずに、疑問符を浮かべた。
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