百五十八振目 日本刀買い始め(騙されたらどうすべき)

 Q:騙されたらどうすべき

 A:諦める


 身も蓋もないですが、実際そんなものです。

 よほど額が大きいのなら頑張って頑張って裁判に持ち込む労力を費やしても良いでしょうが、数十万単位では全くもって意味が無い。

 刀剣関係のみならず美術品系のトラブルの解決は非常に難しい。

 品質の上下は詐欺ではないし、偽銘などの非正真を売ろうと詐欺でもない。定価がないので割高に売りつけられたからと詐欺ではない。

 そも詐欺を詐欺と認定するには、相手に騙す意図があったかどうか、自分に落ち度がなかったかどうか等々、なかなか証明する事が難しく面倒です。

 特にオークションとなると、そこからさらにややこしくなる。仮に詐欺として成立したとして、損害賠償の請求で返金されるかは別の話でしょうし。相手が逃げたらそこで終わりの泣き寝入りというのは、他の損害賠償請求と同じ。


 だからこそ、少しでも危ない場所には近づかない事が大切。

 実店舗であれば看板を背負っているので、偽銘や不出来で騙すような事はよっぽどしません。きちんとした店は「正真で出来の良い品を売る」と標榜しており、さらに「万一偽銘であれば何年経とうと全額返金する」とさえ掲げています。

 こうした店は少しの手間で探せば見つかりますので安心して購入出来ます。


 実店舗でたとえぼったくりがあったとしても、それは百万円の品を百二十万円で売る程度が大半です。まあ一部はバブル期の遺産でバブル値段の刀剣を売っていますが、それは相当に高額ですので、また別の話。

 店舗として評判も気にするため、そうそう酷い事はしない。

 でもヤフオクなどのオークションでは、全く考えが違う。平気で偽銘や不出来を嘘で固めて売っていますし、値段も五万円の品を十倍二十倍などで売っています。

 だからこそ、きちんとした店で店員さんと対面し会話して買うことが一番安全。


【騙されたら警察に相談しましょう……?】

 警察が抑止力になるから騙す人もいない、騙されたら警察に相談すれば良い、いざとなれば警察が助けてくれる――わけがない。

 警察に相談すると優しいお巡りさんが親切に調書をつくり、しっかり話を聞いて途中で慰めてくれる――わけがない。

 そんな甘い考えは捨てましょう。

 騙されたらおしまい。


 実際に相談した人の話。

 まず「どうして、そんなものを買った!」と強い口調で怒られます。さらに「何の目的で買って、それで何をするつもりだった!」と厳しく詰問されます。つまり日本刀を犯罪目的で買ったかどうかを疑われるわけですね。

 調書をつくるのも一度では終わらず、何度も呼び出されます。その度に強く激しい口調で何度も責められ怒られます。

 すると、むしろ自分が犯罪者として疑われ取り調べされている気分になるらしい。

 しかも結局は詐欺に該当しないと有耶無耶に終わりますので、怒鳴られ損のくたびれ儲けで詐欺師の丸儲け。

 仕方ないと言えば仕方ないですが、警察は捜査機関であって被害者の救済機関ではない。捜査の過程では被害者も容疑者扱いとなります。


【なぜ返品や詐欺にあたらないか】

 この辺りを居合い仲間の法律に詳しい人に説明を受けたものの、小難しくて半分ぐらいしか理解できない。とりあえず、うろ覚えながら簡単に。

1)売り主が正真であると信じ売却した場合は、その品が正真でなかったとしても売り主の錯誤(勘違い)に該当するため詐欺にはならず、契約も無効とはならない。

2)正真でなかったとして契約無効とするには、取引き目的が正真の入手にあったかどうかを証明せねばならない。売り手が正真を販売していると表明し、それに対し買い主が正真を求め取り引きを行ったと確認でき、かつ互いに相手がその認識を持っているかを共有していた場合において、品が非正真であれば契約は無効となる。

 ただし、売り手の錯誤となる場合もあるので絶対ではない。

3)しかし仮に通常一千万円する品が五十万円で売られていれば、売り手が暗黙の内に非正真であると示しているとも取れるため、この場合の契約は無効にはならず、また詐欺にも該当しない

 と、なるのだそうで……基本的に騙す側が有利なのが法律らしい。

 さらに品質の上下や値段の高低は詐欺行為には該当しない。


【ここで唐突に振り込め詐欺】

 居合い道場の若者が振り込め詐欺に引っかかり、最終的には被害者が逮捕されましたので、その経緯をば(後のまとめへの前フリです)。

1)ショートメールのアドレスをクリック。

  アダルトサイトの閲覧~という言葉が不安になってA社に5万円を振り込む。

2)A社から集中的に電話がかかり、恐くなって次々とお金を振り込む。

  気付けば百万単位のお金を(親からも借り、金融機関から借りて)振り込む。

3)ついに払う金がないとA社に泣きつくと、B社を紹介される(もちろんグル)

  B社に優しい言葉で慰められ信用してしまう。

  振り込んだお金を取り戻す方法(国の救済措置)があると言われ、

  取り戻したお金を振り込む口座をつくるよう指示される。

4)本人はお金が返ってくると安心し口座を作成。

  実際にお金が振り込まれる(別口で振り込め詐欺に引っかかった人の振り込み)

  それを見てお金が返ってきたと安心。

  銀行側の措置で口座が凍結されているので引き出せないが安心。

5)上の3)頃に周囲が様子のおかしさに気付き問いただす。

  ようやく本人は振り込め詐欺に騙されていると気付き、警察に被害届を提出。

6)警察に調書を取られるが、何度も同じ話をさせられる。

  その度に繰り返し怒鳴られ叱られ責められ鬱状態となる。

7)もう全てが嫌になって被害届を取り下げる。

  この時点で上の4)の頃。

8)上記で作成した口座が別の振り込め詐欺に利用されている事を警察が捜査中。

  銀行から講座を騙し取った詐欺容疑にて、被害者を逮捕。


 以上、騙された被害者が詐欺師として逮捕されるまでの流れ。

 いろいろ突っ込みどころがあるのですが、これが実際に起きたこと。渦中にあると、もう何が何やら分からなくなるのだそうで。

 被害を受け多額のお金を失い、詐欺にて逮捕され職を失い、家族や友人など周囲からの信用を失い、周りからの評判も(騙されたという点だけでも)下がり踏んだり蹴ったりの状況。

 せめて被害届を取り下げねば逮捕まではされなかったはず……しかし、どうも警察側は全ての事情を知っていながら、あえて責めたて被害届を取り下げさせる方向に誘導した気配があるような……。


 それはさておき、上記の振り込め詐欺の顛末に対し「どうして騙される? バカでないか」と笑ったかもしれません。私も悪いですが(笑いはしないものの)そう思いました。

 ですが、刀剣関係で騙される人は端から見ればこれと同レベルなのです。

 刀剣を手に取りもせず画像だけで判断し、あまつさえオークションで買うなど、上記の振り込め詐欺で振り込んでいる人と全く同じ行為をしているのです。

 その点を心に留め、刀剣を買う場合は必ず「実店舗で実物を手に取り自分の眼で直接確認」して購入しましょう。そうすれば、よっぽど変な店に行かない限りは酷い目には遭わないはずです。


 何にせよ、自分は騙されないと思っている人ほど騙される。

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