二十三振目 介錯の流儀の一つ

※一部生々しい表現があります。


 介錯とは切腹の際などに首を斬る事で、切腹は武士が己の誇りを保つため、または死を持って罪を償うための行為です。一方で打ち首は罪人に対し死を与えるものであって、両者は同じ行為でありながら、趣旨は全く違います。

 また、首の皮一枚残すと往々にして言われますが……実際には打ち首の時に行うものであって、介錯の時は行いません。介錯では首を一撃で切り落とします(理由は後述)。また、刀身に水をかける行為も、打ち首で行うものです。


 以下に示す方法は死んだ爺様から教わったもので、爺様も子供の頃に老剣術使いから教わったというものです。この先に誰かに教える機会もなく、途絶えて消えてしまいそうなため、勿体ないとの思いで記させて貰います。

 勿論、必ずしも正確ではないかもしれませんし、所々忘れてしまった部分もあります。また、様々な流儀や作法があるかと思います。


■心得など

1.切腹人

 白装束を着用し正座。よく映画などでは諸肌脱ぎになりますが、全ては脱がず肌を出さずに斬ります。 

2.介錯人

 切腹人に対し礼儀を持って接します。事前にいつ首を斬るか(三宝に手を伸ばした時、小刀と持った時、腹に当てた瞬間、刺した瞬間、切腹人が頼んだ時)を事前に切腹人と調整しておきます。

3.小介錯

 首桶(斬った首を入れる桶)を運ぶ係、死体に布をかける係。

4.検使

 切腹が滞りなく行われたか確認する係


■介錯の流れ

1.位置

 切腹人の右斜め前方に検使が着座。同じく切腹人の左側一歩後ろに介錯人が立ち、小介錯はその後方にて控えます。

2.方法と流れ

・介錯人が抜刀。切腹人が目上である場合は後方で抜き刃を見せません。同等である場合は、横で刃を横に寝かせて抜きます。目下である場合は前で普通に抜き刃を見せます。

 構えとしては左足を前として、刀を右肩前で垂直に立てます。右手が耳の横に、左手が右乳首に当たるようにします。

・切腹人は三宝に置かれた小刀を右手で取り上げ、三宝を左手で持って左へと置く。

・事前に打ち合わせたタイミングで介錯を実行。爪先立ちとなって刀を真っ直ぐ上に振り上げ、右膝を地面にぶつけ身体を捻るようしゃがみ一気に振り下ろす。最後に勢いを止めるため、鍔を自分の左膝にぶつけます。

・柄を左手で持ち、右手で懐紙を取り出し血をぬぐい取ります。

3.確認

・小介錯が進みで、落ちた首を両手で持ちます。この時に耳を挟み指を耳の穴に引っかけて持ち、検使に首を見せ切腹が正しく行われた事を確認して貰います。ですから、首の皮一枚残す事はしません。

・首を首桶に入れ、もう一人の小介錯が布を持って残りの死体にかけます。


■余談

・打ち首の場合は事前に穴を掘り、その前で首を斬り落とし穴に投げ落とします。この場合は抱え首(つまり首の皮を残した状態)として、処理の手間を省きます。よって介錯では、尚のことに首の皮を残さず断つのです。

・観念した者より、死に怯えた者の方が斬りやすいとの事です。理由は観念した人間は素直に首を打たれようと差し出すのですが、そうすると姿勢的に首の骨の角度が悪くなる。一方で怯えた者は首が真っ直ぐのため角度が良い。

・実際に巻き藁で行うと、正に正座した人の首の位置を斜めにスパッといきます。

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