闇のエルガイア

出現

「はぁ!」


 トドメと言わんばかりに、敵ミュータントの蹴りがエルガイアの腹に突き刺さり、吹き飛んで、エルガイアは芝生の上に倒れて動かなくなった。


「拓真君!」

「拓真君!」

「先輩!」


 まさか、死んだ、のか……。


「しっかりするんだ! 立つんだ! 死ぬぞ!」


 こちらの呼びかけに、エルガイアはピクリとも動かない。

 敵のミュータントは、最後の一撃の余韻を残し、静かに手を合わせた。


「勝負あり。エルガイアは、この赤い牙が一人、トウテムが討ち取りました」


 トウテム。あのアムタウ族のミュータントの名前か。


「では、約束どおりに。命まではとりません。だがその元凶たるエルガイアの右腕は、持ち帰らせていただきます」 


「やめろ!」


 俺は叫んで、ライフルをトウテムに向けた。


「これは私とエルガイアとの決闘! お互いに了承した約束である! 命まではとらぬ。しかし右腕はもらっていく!」


「させるものか!」


 俺は、ライフルをトウテムに向けて発砲しようとして――


「先輩!」


 優子君の叫び声で、その場にいた俺を含む全員が注目した。


「エルガイアが……立ち上がった!」


 あっけに取られる木場の声。

 エルガイアが、拓真君が、再び立ち上がってくれた。


「拓真、君……?」


 なんだ? 様子がおかしい。


 エルガイアは立ち上がった。だが、体は脱力しているようで、前屈みになって両腕をだらりとたらす姿勢で立っていた。


 見るからに、明らかに、弱っていた。


 しかし、その眼。金色に輝く眼は、ギラギラと見開いていた。


 ふしゅううううううるるるるるるる――


 エルガイアの呼気。


 何かがおかしい。


「エル、ガイア……まさか、お前は?」


 トウテムの声が、震えていた。


 ふしゅうううるるるるるる――


 エルガイアがトウテムに向いた。


「まさか、まさか……貴様、エルガイアアアアアアア!」


 叫ぶトウテム。心が乱れ、恐怖におののく叫び声。


 ずずず……ずずずず……。


「エルガイアが……」

「黒く、なっていく……」


 エルガイアのプロテクター状の皮膚が、黒く変色していく。

 ふしゅぅるるるるるるるる。ふしゅうううう――


「うわ、うわあああああ! その姿! 来るな、私を見るな! こっちを見るな!」


「ウア? ウアアアア……アアアァ……」


 のそり、と動き出す黒いエルガイア。


「やめろ、やめてくれ、私はまた眠りたくない! 来るな! 闇の、エルガイア!」


 闇の……エルガイア?

 なんだそれは?


「ウウ……アアア……アアアアッ!」


 ドッ!


 闇のエルガイアが、芝生を蹴り上げ、とんでもないスピードで飛び出し、トウテムに接近した。


 ドスンッ!


 そして、闇のエルガイアはトウテムの胸に、その腕を突き刺した。


「が、があああああああああ! 誰か、誰か! 助けてくれ! 俺は、俺はまた眠るのか! 嫌だ! 嫌だああああ!」


 ふしゅううううううう――


「ああ、あああ……エル、ガイア、めえ……」


 まるで、力を奪われるように、トウテムが急激に弱っていく。

 そして、トウテムは死んだかのように、意識が途切れて倒れた。


 ズシュ!


 闇のエルガイアが、トウテムの胸から腕を抜き、体を揺らしながら倒れたトウテムを見下ろした。


 しゅうううううるるるるるる――


 なんだ、この動物を威嚇するようなエルガイアの息は。


 エルガイアに、何が起こったんだ?


 辺りを見回す、闇のエルガイア。


 あまりの光景に、誰もが口を閉ざしていた。


「アア、アアアア……」


 呻くようなエルガイアの声、いや鳴き声と言ってもいいかもしれない。

 そして闇のエルガイアは、跳躍して巨大アスレチックに着地し、また辺りを見回して。


「エルガイアが」

「消えていく……」


 木場と優子君の言った意味のまま、まるで消えるように、闇夜に溶け込むように、闇のエルガイアはその姿を消した。


 何が、起こったんだ?


 闇のエルガイア……。


 なんだったんだ、今のは?

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