パーティの始まり
メインラウンジを通り、その先にあったメインダイニングルームには、大勢の乗客が集まっていた。
隅の方には弦楽団が弦の調整に楽器を鳴らしていた。
船長が挨拶に参上し、一通り挨拶をした後で、皆で乾杯とグラスを持ち上げ、パーティが始まった。
「ああー、木場さん。私たち出遅れちゃったみたいですね!」
「そうだね、もう始まっちゃってるよ。これじゃあ二人を見つけるのは難しいね」
「どこにいるんでしょう?」
木場と優子が周囲を見渡す。
と――
「これは! 良いものだああああああああああ!」
と言う聞き覚えのある声が飛んできた。
「か、舘山寺さん?」
木場が舘山寺を見つける。その視線の先には――
「このタワープリンアラモード! 下の素晴らしく香ばしいカラメルに、上の極上の生クリームを交互に食べる事によって美味さの相乗効果が生まれている。これはまさにスイーツのエンドレスタワーだあああああ!」
「…………」
「…………」
すると舘山寺の隣からコックが現れ、別のスイーツを渡した。
「こ、このフルーツの盛り合わせに乗っているオレンジのソースは……マンゴーか! いやそれだけじゃない! なんだこれは! マンゴーを主体とした謎のソースが! それぞれのフルーツと見事に調和している! これはまるで、フルーツのパラダイスリゾートおおおおお!」
「…………」
「…………」
「これも、良いものだああああああああああ!」
スイーツの森で我を忘れ、トリップしている舘山寺を見る、木場と優子。
言葉も出なかった。
「た、拓真君はど、どこかな~」
「……あそこにいます」
木場のスーツのすそを引っ張って、優子が指をさした。
ガツガツガツガツガツガツ――
そこには、ひたすら料理を自分の皿に乗っけては、物凄い勢いで食べまくり次の料理へ動き回る拓真の姿があった。
「…………」
「…………」
木場と優子が、半眼になって拓真の姿を見る。
――ああ、駄目だこの二人。
木場と優子は瞬間的に悟った。
「木場さん、そういえばまだ貨物室を見ていませんでしたね」
「うん、一番怪しいところをあえて後回しにしていたんだっけ」
「私達だけで行きましょうか?」
「……そうだね」
木場と優子の二人はきびすを返して、メインダイニングルームを後にした。
貨物質の出入り口に到着すると、二人の乗務員が立正していた。
警察手帳を見せると、舘山寺が既に手配していたのかすんなり入れてもらえることができた。念のため怪しい人物が来なかったかと聞くと、誰も来なかったと言う乗務員。
そして、危険だと言って乗務員をその場に残したまま、暗い貨物室の中へ入った。
「もしここに何も無かったら、どこにあるんでしょうかね?」
「船に穴を開けられればそれで十分なんだ、だから小さいプラスチック爆弾でも十分に危険度が高い。くまなく探してみよう」
「はい」
乗務員から受け取ったマグライトを振り回して、貨物室を散策する。
と――
「あれ?」
優子が何か丸いものを蹴った。優子はそれを拾い上げる。
それはバスケットボールほどの丸い球だった。
「紙? それと、ふんふん……火薬の匂い?」
「なんだって!」
木場が優子の元へ駆け寄る。
マグライトを当ててその球をじっくりと見る。
「木場さん、これって……」
「花火の、球?」
木場が周囲をマグライトで照らす。
「そんな、まさか……」
周囲には木箱に囲まれ、ぎっしりと詰め込まれた、大量の花火球があった。
「これ一つでとんでもない爆発量なのに……こんなにも……」
「これ、本当にやばいやつですよね?」
「ああ、とんでもないぞ、船に穴を開けるどころか……船ごと吹き飛ばす気か?」
「どうしましょう? こんなにたくさん」
「運んで海に捨てるにも、量がありすぎる……」
グルルルルル……
何か動物が唸るような声が聞こえてきた。
優子がマグライトを聞こえたほうへむける。
「いっ!」
そこには木箱に張り付くようにして唸っている、巨大な犬がいた。
人間大もある巨大な犬。
その犬が、人間の言葉をしゃべった。
「お前達、殺す」
「……さしずめ、番犬ってところか」
木場が拳銃を取り出そうとして、優子が止めた。
「駄目です! 花火球に当たったら爆発しちゃいます!」
「そ、そうだった……」
「おそらくどこかに、花火を燃やすための爆弾があるはずです!」
「それは探しても無意味だ」
巨大な犬が言った。
「起爆させる最初の爆弾はこの花火球の中に紛れ込ませてある。したがって探し出す事は不可能! もっとも、私がお前達を殺すがな!」
巨大な犬が姿を消した。そしてあちらこちらに飛び回る音が貨物室に鳴り響いた。
「ひとまずここを出ましょう! こんな所では戦えません!」
「そうだね! いったん逃げよう!」
「逃がしはせんよ! こっちもパーティーを始めようではないか!」
貨物室を出て、出入り口にいた乗務員二人に緊急事態だと告げて一足先に逃がす。
こちらも貨物室を出ると、巨大な犬も追ってきた。
「あなたは何者ですか?」
「我はカカロ族のメガロ」
「あなたも、エルガイアに恨みがあるのですか?」
「いかにも! だがお前達に吼えた所で何にもならんがな!」
メガロが大口を開けて飛び掛ってきた、それを木場と優子は左右に避けてやり過ごす。
「くそっ! 秘密兵器が!」
「どうかしたんですか?」
「いや、ほんの少し、ほんの少しだけ準備する時間が」
「そんなああ!」
見事までに犬の足を使って翻弄してくるメガロ。
二人は逃げる一手だった。
―――――――――――――――
ゴキリ、グキグキグキ、ゴキゴキゴキゴキ――
メインラウンジのど真ん中で、突然現れる赤い巨体。
ジャングルが突然現れた。
そしてジャングルは叫ぶ。
「用の無い者は全員去れ!」
ドゴンッ!
ジャングルがその巨大な拳で床を激しく叩き、その場にいる乗客員たちを震え上がらせた。
そして悲鳴と共に乗客達が逃げ出した。
「…………」
ジャングルが拓真の背中を見る。
「エルガイア、勝負だ!」
ジャングルの声を無視して、目の前の料理をガツガツと食べる拓真。
「聞こえているのか! エルガイア!」
皿に乗った料理を食べ上げ、大きくごくりと喉を鳴らしてから、水をグッと飲み干す拓真。
「……なあ、ジャングル」
拓真がぽつりと言った。
「やめないか?」
「なんだと?」
「復讐なんてやめないかって、言ってるんだ」
「ふざけるな!」
「……やっぱ、そうなっちまうのか」
「早くエルガイアに変身しろ! 我が復讐の念、一身に受けてもらおう!」
「はぁ……」
拓真は大きくため息をつき、椅子から立ち上がった。
「多分だけど、お前のその復讐の心は、俺にはどうにもできない。たとえ、殺されても、どうにもならないと思う」
「なんだと!」
「俺は、確かにエルガイアだけど、お前の知っている昔のエルガイアじゃない。復習と言われても、俺にはその当時の記憶は無い……俺は別物のエルガイアなんだ。だから、お前の復讐心は、俺で晴らそうとしても、無理だと思う」
「それでも、エルガイアは倒さねばならぬ! ならばこの胸のうちにある憎しみを、どこへ向ければいい? お前を倒す事でしか、この激しく燃える炎は消えないのだ!」
頭をガリガリと掻く拓真。
「やっぱり説得は無理なのか……じゃあ、試してみようか? 俺を叩き潰す事で、本当にその恨みが晴れるのか? まあ、負けるつもりは無いが……」
「ああ、そうだ。始めるぞ! エルガイア!」
「……わかった」
暗い顔をしている拓真が、キッと目を開き、変身を始めた。
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