空―Kara―

「あの、子安さん」

「うん?」


 報告会議が終わり各々が解散する中、機動隊隊長でもある子安静雄警部を呼び止めた。


「なんだね? 舘山寺晃一警部補」


 別段、今回の被害を頭を下げて謝るつもりではなかった。ただ、子安静雄さんの胸の内を確認したかっただけだった。


「……私的な見かたでかまいません。これから、どうなると思いますか?」

「どうなる、というと?」

「その、なんと言いますか……また今回のような、正体不明の生物。怪人たちが現れるのだとしたら……」

「特に私のやることに変わりはない」


 キッパリと子安さんは言った。


「出動命令が出れば出動する。与えられた職務をこなす。ただそれだけだが?」

「そ、そうですよね。その通りですね」

「君もそうだろう?」

「……はい、その通りです」


 ――何をやっているんだ自分は。


「聞きたい事とはそれだけかね?」

「あ、はい……」


 気まずい沈黙が流れて、つい首の裏をかいてしまう。自分はこの人に何を求めていこんなことを言ったのだろうか?


「ああ、そうだ」


 子安さんが口を開いた。

「その、今回の正体不明の生物と同じ姿になれる、結崎拓真君、と言ったか」

「はい、彼が何か?」


 彼については、議題としてはとても難しくデリケートで、賛否両論になった。

 彼を協力者として変わりに戦ってもらう。国立病院で人体を調べて、対策になるものを発見、解明する。彼の力は要らない、たった一人の高校生には荷が重過ぎる、警察の面子にかけて自分たちで対処しよう。などなど、様々な意見がでてまとまらなくなり、結崎拓真君の件については今回は先送りになった。


「一度会ってみたい。お願いできるかな」


「はい! わかりました!」

 子安さんの言葉に敬礼をして応える。そして子安さんが俺の肩に手を置いた。


「あまりかたくなるな。一応は一息ついたのだから、休める時に休むと良い」


「はい! 了解であります!」


 そして子安さんは去っていった。

 子安さんと多少会話が出来たからか、胸の中の重みが和らいだような感覚がした。


 そうだよな、俺たちは大事な時に常に現れて無償で悪と戦うようなヒーローなんかではない。いち国家公務員。たった一人の警察官。そして一人の人間だ。

 手を額に置いてうなだれる。

 俺は何をしようとしていたんだ? 同じ事件を共にした子安さんに何を望んでいた?


 子安さんからどんな言葉を期待していたんだ?

 ……なんだか、自分がよく分からない。空回りしている。

 デスクに戻って甘いコーヒーを作って。落ち着いて、そして体と頭を休めよう。

 まずは大きく息を吸って、長い時間をかけて吸い込んだ息を吐いた。



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