家族―Family―

「――と言う事です。舘山寺さん」


 たった今起こったアスラーダの突然の来訪と、思念で伝えてきた女王のいる場所を伝える。場所は市内北区のさらに北方向にある山々の間を流れる川べり。景色も思念で伝えて来たのではっきりと分かる。


『わかった。こちらも残った機動隊を緊急出動させる。木場をそっちへ向かわせるから、合流してくれ』


「じゃあ俺の家の少し離れたところにある郵便局。西郵便局で落ち合うようお願いします。さすがに祖母と姐がいるので……」


『分かった、木場に伝えておく』


 舘山寺さんと話を終え、通話を切る。

 行かなきゃ。一刻も早く。


 ――優子。


 無事でいてくれよ。

 まだジーンズとワイシャツの姿だったので、いつでも出られる。

 自室のふすまを開けて玄関へ向かう。


 と――


「どこ行くの?」

 どきりとした。もう二人とも寝ているものだと思っていたが、頼子姐さんがまだ起きていた。

「ちょっと行って来る」

「どこへ?」

「…………」


 明らかにいらだっている姐。今までのいろいろな事情を伝えるには長すぎる。


「ちょっとそこまで」

「嘘ね」

「…………」

「本当の事を言いなさい」

「……時間が無いんだ!」


 走り出して靴を履き、玄関をこじ開けて外に飛び出し、走って近くにある西郵便局へ向かう。だが、

 追ってきた姐に腕を掴まれた。


「まちなさい!」


 止まらざるを得なかった。隠し事をしている罪悪感かその手を振りほどけなかった。


「アンタ、さっきあの現場に行ったのよね。何があったの? 何をしてきたの?」

「……今は話せない」

「ばーばは、どうするの?」

「…………」


「最近のアンタ明らかに変よ。何があったの? 何をしているの? もし、アンタにまで何かあったら、ばーばはどうしたらいいの? じーじも亡くなって、兄さんまで死んじゃって、そのうえアンタでいなくなったら、ばーばは……」


「ぐっ」


 奥歯をかみ締める。姐と向き合えない。

「ちゃんとほんとの事を言って」

 夜風がふわりと流れる。少しだけ肌寒い。


「……友達が、さらわれたんだ」

「それは、もしかして優子ちゃんの事?」

 無言で肯定した。


「じゃあ警察に任せればいいじゃない。あんたに何ができ――」

「俺じゃなきゃだめなんだ!」

 振り向いて、姐と向き合う。俺は今、どんな顔をしているのだろう?


 恋人でもない、俺に一方的に強烈な片思いをしてくる後輩の女の子のために、いろいろ悩んで苦しんで、それで――


「俺が、俺にしかできない事があるんだ……だから行かなきゃだめなんだ」

「…………」


 姐の眼を見る。どこかさびしげな叔母の顔、いつも陽気で怒りっぽい頼子姐さんの、初めて見る悲しそうな瞳。


「必ず……戻ってくるから。ゆっこを助けて、戻ってくるから」


 長いのか短いのかよく分からない静寂の時間が流れて、姐が眼を伏せた。

「わかった……じゃあ、必ず帰ってくるのよ」

「何も話せなくてごめん」

「さっさと行きなさい、警察の人と待ち合わせてるんでしょ?」

 電話していたのを聞かれていたのか……


「うん、行って来る。それで必ずゆっこを助けて帰ってくるから」

 俺の腕を放した姐に背を向けて、俺は走り出した。

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