病弱武器士とコミュ障魔術師
3号
第1話
「んー、今日もいい天気!」
雲がまばらに流れている青空に、身体を包み込むような心地よい風が流れる草原。フルダイブ型VRMMO「アナザーワールド」が作り上げた仮想現実の大自然で、アイリーンとカナの2人は今、絶賛狩に勤しんでいた。
「そうですね。サンドイッチとかお弁当で持って来ればよかったです」
「そうよー。カナ料理得意なんだから用意してくれないと。ちょっと楽しみにしてたのよ」
穏やかな会話の最中にも、爆炎魔法が狼型の魔物を群れごと吹き飛ばし、二本の刀が豚頭の亜人を立て続けに両断する。
大規模レイドクエスト「魔の森の大氾濫」。その最前線で戦ってるとは思えない会話はなお続く。
「ならアイリーンも何か作ってきてくれたら良かったと思いますよ?」
「私の料理スキルは最低値なの! リアルでもここでも」
「リアルの事まで自白しなくても」
会話しながらも量産されていく討伐数とスコア。2人のことをよく知る上位パーティー陣は「またか」と困った子でも見るように苦笑し、2人とそんなに接点のない中堅パーティーの人たちは状況にそぐわない会話と苛烈なまでの戦いで呆気にとられている。
「取り巻き剥いたぞ!キングゴブリン今ならやれる!」
左方から声。見るとレイドボスのキングゴブリンが取り巻きを半数まで駆逐され、 プレイヤー達へと怒りの咆哮を上げていた。
「おー怒ってる怒ってる」
「景気良く憤怒モードになってますね。デフォでしょうかあれ」
筋力と耐久が5倍に跳ね上がる代わりに知能が低下する状態異常「憤怒」。ゴブリン族とはいえ元が3メートルにも至る筋肉の塊が怒りのあまり暴れまわれば被害は洒落にならない。
猛々しい炎を纏った大剣をゴブリンキングが振るうたびに、周囲の中級プレイヤーが紙屑のように宙を舞う。
子供が飽きて放り投げた人形のように降ってきたプレイヤーをひょいと避け、どうしたものかとカナは視線を巡らす。
流石に上位プレイヤーはゴブリンキングの攻撃も上手く防いで渡り合っているが、中級プレイヤーは目に見えて戦線を離脱している。
きっと今頃、回復支援のプレイヤーは大忙しで治療にあたっている頃だろう。
ゴブリンキングの怒気に当てられたのか、周囲の亜人達にも軽度な「憤怒」が発生してるのも状況を悪化させている。
(不味いですね、このままでは時間がかかりすぎてしまう。医者に聞いていた猶予はあと1時間もないというのに)
病院のベットの上でVR機器に繋がれている自身を思い浮かべ、カナは乾いたため息を吐いた。
「さて、どれだけ保ってくれるか」
生来、病弱な城山哉は体調を崩す度に入退院を繰り返していた。
少しの風邪でも油断すれば結核かと疑うほどに悪化する。下手すれば呼吸すら困難になり病院へ配送される事すらある。
頭痛や喉の痛み、小さな症状であっても放置すれば大ごとになりかねない。気がつけば哉の人生には白い病室の記憶ばかりが増えていた。
当然、この状態で激しい運動なんてことは出来ず、動けたらああしたい、こうしたいと想像を巡らしながら、本を片手に病室の窓越しに外を見つめるのが精一杯。そんな日々を過ごしてきた。
そんな哉にとってVRワールドとの出会いは正に天運だったと言えるのかもしれない。
例えバーチャルで作られたものだとしても、五感を感じれる、自分で歩ける、走れる。何より気の向くままに冒険すらできる。
現実にはない健康な身体、それは涙が出るほど嬉しいものだった。
あんまりに動くのが楽しくて、ついつい物理ばかりで敵に挑みかかり、魔法の技能が未だに初期値だったりするが、それでも哉はバーチャルワールドが楽しくて仕方がなかった。
仲間ができ、友ができ、人と繋がれるのも哉には夢のような時間だった。文字通りこのゲームは哉にとっての「アナザーワールド」だったのだ。
だが、そんな時間ももうすぐ終わる。本能的に分かるのだ、もう此処に戻っては来れないと。
だからこそ普段通りにいこう。しみったれた空気なんか現実だけで充分。此処ではそんなの似合いはしない。
「カナ行っちゃう?」
「折角ですしね。羽目外してきますよ」
「おけ、援護は任せなさい!‥‥頑張って」
アナザーワールドを始めてすぐに出来た友達にしてパートナーであるアイリーンが、軽いウインクと共に炎弾乱射でゴブリンキングまでの道を作ってくれる。
アイリーンには話してある。これが最後のログインになるかもしれないと。知ってて彼女は普段通りに接してくれているのだ。
いい仲間を持った。自然と口角が持ち上がる。
「こんなラストも、悪くはないです」
駆け抜ける姿は何よりも早く、立ちふさがる魔物は切り刻み、勢い尚衰えず。
絶妙に打ち込まれる炎弾に背を押され、一呼吸の間に哉はゴブリンキングへと肉薄。流れるように二刀を袈裟懸けに振るう。
思い浮かべるのは明確なイメージ。両肩を走り抜け、地から返す刀で天を目指し喉元を叩き斬る。
知らず声をあげながら振るう太刀筋は気迫をなぞり、イメージを現実へと反映させる。
放たれたのは、殆ど同時にすら思える四つの斬撃。
刃の勢いを身ごと独楽のように回転して殺しきり、哉が両膝をクッションのように使い着地するのと同じくして、思い出したかのように斬撃のエフェクトがゴブリンキングの身体を駆け回る。
「グッ‥‥ガァァァァァァァァ!!!」
一瞬にして負った致命傷に怒りと苦痛の咆哮を上げるゴブリンキングだが、すぐさま放たれた哉の追撃がそれ以上の行動を許さない。
「グギッ‥‥」
背後から背骨と肋骨の間をすり抜け、心臓へのひと突き。胸の間から突き出した刀身を醜い顔で睨みつけ、ゴブリンキングは爆散するようにドットへと還った。
途端、亜人の群れが統率を失い烏合の衆へと成り果てる。こうなったら後は討伐戦だ。先ほどまでの合戦が嘘のように一方的な展開となった戦場の真ん中で、哉はゆっくりと空を見上げた。
バーチャルとは思えない、青く澄んだ天海。
「おつかれ」
「アイリーン、ナイス援護でした」
「カナもナイスファイト」
いつの間にか隣に来ていたパートナーと軽く拳を打ち合わせる。
「さっきはピクニックと言いましたが、やっぱりピクニックやるには騒がしすぎますか」
「そう? 賑やかなのっていいじゃない‥‥見てる分には」
「混ざらないのですか?」
「え、いや、だってさ‥‥」
途端にキョドキョドしだしたアイリーンの頭をくしゃっと撫でる。
慣れた人にはよく話すけど、そこまで行くのが随分と遠い。
「なによー」
「かわいいなと思いまして」
「なっ、か、かわ!?」
「‥‥やっぱり、サンドイッチ作ってくれば良かったですかね」
思いっきり身体を動かすのも気持ちがいいが、のんびりと、この相棒と過ごすプランも、存外悪くなかったのではと思う。
それこそ2人でサンドイッチでも摘みながら、他愛もない話題で盛り上がる‥なんて。
ありもしない、もう得ることもない「もしも」を思いクスリと笑う哉。視界の端に「アラート」の文字が先ほどより点滅しているが、心は驚くほどに穏やかだ。
「ねぇ、カナ、これって‥‥‥」
どこか怯えたようなアイリーンの頭を、安心させるかのように優しく撫でる。
半分ほどノイズが混じり、消えかけている腕で出来るだけ、気持ちが伝わるように。
「‥‥‥意外と保ちませんでしたね、私の身体」
バーチャルの身体が消えて行くと言うことは、リアルの肉体が放つバイタルが弱まっていると言うこと。つまり、もう自分は長くはないということ。
哉は短くメニューと呟くと、眼前に開いたコンソールを辛うじて残っていた右手の人差し指のみで操作し、予め書いておいたメールを二通送信した。
宛先は家族のパソコンと、アイリーンのメッセージボックス。
そこまでで限界が来たのだろう。一気に崩壊が進むアバターを涙を流して見つめるアイリーンに一言「ありがとう」と言い残し、哉の意識はリアルへと引き戻された。
「戻って来たか。どうだね、後悔は無いかね」
「ええ、これで良かったんですよ」
目を開けると見知った白い部屋。風にそよぐ飾り気のないカーテンに、無数のコードが繋がれた枯れ木のような肉体。
呼吸器は既に外され、過剰な治療装置もその役目を終えて沈黙している。
部屋にいるのは哉と主治医の2人のみ。まるで自分の人生の狭さを表したかのような光景だなと、上手く働かなくなりつつある頭で哉はぼんやりと考えた。
「こんな時に私だけが見送りとは。たまにあるが、どうも慣れないな、こう言った役回りは」
「すいません。ですが、見送りならもうやって頂いた後ですよ」
「バーチャルでか。さながらもう一つの世界だなそれは。私のような古い人間にはついていけないよ」
「まだ40にもなってないでしょう。まだまだこれからですよ」
「これから、か。そうだな、私も少しやってみてもいいかもしれない」
「ぜひ、そうして下さい」
霞みがかった意識で医者と僅かに笑い合う。 VR機器の持ち込みやネット環境整備など、本来は病院に無かったものをごり押しで用意してくれたり、ギリギリまで側につきバーチャルで最後を過ごせるように計らってくれたり。
思えばこの先生には色々とお世話になった。
「何か、家族に伝言はあるか?」
「そうですね、長生きして、下さいって、ところですかね」
「くくっ、皮肉が効いてるな。お前にそんな事言われたら意地でも長生きするしかなくなるだろうに」
「それが‥‥狙い、で、すよ」
言葉と意識が途切れ途切れになっていく。
医者もそれと察したのか、一歩身を引くと、静かに哉へと一礼した。
「よく今まで闘病頑張った。良き旅路にならんことを」
旅路ときたか。最期まで「さよなら」とは言わないんだな。
変なところで意地っ張りな医者へと最期の力で笑いかけ、哉はゆっくりと目を閉じた。
こうして「戦刃」と呼ばれた1人のプレイヤーは、小さな病院の一室で、ひっそりと永遠の旅路に誘われたのだった。
たった1人残された丘の上で、彼女は彼が見上げていた空を仰ぎ、誰に知られることもなく消え入るように姿を消した。
「ふぅ‥‥‥」
ヘッドギア型のVR機器を外し、汗でペットリと張り付いた髪を乱暴にかき乱す。
VR世界に居た時は感じなかった空腹や喉の乾きが待ってましたとばかりに主張して来るが、近衛愛理はとても今、そんな気分にはなれなかった。
ただ、ぼーっとベットに座ったまま、窓の外に広がる青空を見つめる。
「カイくんも、この空見てるのかな」
カイとコンビを組み始めて3年。その間に愛理はカイの病気のことも多く聞いていた。
曰く、自分はいつこの世界から消えるかも分からないから、話さないと筋が通らないとか。
いつどうなっても不思議じゃないから、今を精一杯楽しむんだとか。
その最期まで楽しむ場がゲームでいいのかと最初こそ思ったが、愛理としても人の事など言えた立場じゃなかった。
3年、それに1年を足した期間、それが自分の足で外に出た最後の日より空いた時間。
楽しんで外にとなると、それより前か。
有り体に言うと、愛理は引きこもりだった。
中学への入学、母親の再婚で引っ越した愛理は初めての環境でも頑張ろうと意気込み、そして無残にもその意思をへし折られた。
溶け込めないクラスメイトととの分厚い壁、自分に向けられる蔑みを込めた視線、投げかけられるのは心無い言葉と無関心。
もともとコミュニケーションが得意ではない癖に、意気込んで直ぐに友達を作ろうと頑張ったのが仇になったのだろう。
出てくる釘は打ち込みたい。
それが見も知らない釘なら尚のこと。
ぽっと出の新入りが出しゃばってくるのを、周りが受け入れようとはしなかったのだ。
そうなると中学という環境も悪い方に影響してくる。
義務教育という関係上、地元の小学校から持ち上がりで入学してくる生徒が大半を占める公立中学校の環境。
代わり映えのしない顔ばかりが並ぶ環境は、言い方を変えるなら既に仲間という集合体が出来上がってる環境と言える。
そこに突如現れた新入り。
最初こそ物珍しさもあり歓迎されていたが、次第に空気は変化していき、気がつけば愛理の周りには誰もいなかった。
聞こえる言葉は黒いコールタールのように心へ纏わり付き、見えない空気が剣山のごとく愛理を責め傷つける。
1月、2月と時間が経ち愛理が学校に行かなくなったのは、ある意味自然な流れとも言えるかもしれない。
「ごくっ‥‥‥んくっ、ふぅ」
緩くなったペットボトルのお茶を飲み干し、寝乱れたベットから立ち上がる。
部屋の中は女子を辞めている程度には散らかっているが、四年の歳月をほぼ過ごした部屋ならではの足運びで苦もなく歩き回る愛理。
散らかっているマンガ本や衣服を蹴散らして開けたスペースへ椅子を滑り込ませ、全く日焼けしてない白く細やかな指先でパソコンの電源ボタンを押し込んだ。
ブゥーンと響く排気音。
四年以上使い込んでいるノートパソコンは働きたくないとゴネるように毎回唸りを上げるのだが、愛理は知ったことでは無いとばかりに酷使している。
引きこもりにとってパソコンは、時間潰しの意味でも外界との繋がりという意味でも命綱なのだ。まだ退職させるわけにはいかない。
特に今日は、例え寿命であっても働いて貰わなければならない。
階下から聞こえる父と母と、三年前に生まれた弟の笑い声へ背を向けて、なかなか変わらない画面を無言で見つめ続ける。
待機画面が終わり現れた入力欄に慣れた手つきでパスワードを入れると、見慣れたデスクトップ画面が出て来るのをまた、じっと待つ。
「はやく、はやく、はやく」
昔は無かった独り言。引きこもってからは最早癖になってしまった誰に伝えられることもない発語を繰り返し、デスクトップ画面が表示されるや否や、愛理はメールボックスをダブルクリックした。
「きっとある、きっと残してくれてる、きっと、きっと」
彼の性格なら、あっさりと別れたようでいて、何かしらの形を残していくだろう。
現実から逃げたいがために入り込んだ初めてのVR世界。周りの人が全て怖く感じて震えていた自分を救ってくれた彼の、最後の言葉。
愛理の四年を支えてくれた、愛理にとってのもう一つの「世界」ともいえる彼が、最後に愛理へと送る言葉。
きっと、きっとあるはずだ。
もし無かったら、自分はカイにとって特別でも何でもなく、ネットの友人の1人としか思われてなかったら‥‥‥。
そんな恐怖を振り払うように未読を確認し、上から二番目で求めていた名前を見つけた愛理は、迷うことなくそのメールをクリックした。
『親愛なるパートナー、アイリーンへ』
そんな件名から始まるメール。
普段から漫画とラノベしか読まない愛理は一文字も逃すものかと、食い入るように画面へと迫る。
『親愛なるパートナー、アイリーン。
これを送っているということは、きっと私は思うように最期を過ごし、あの世界から立ち去れたんだろうと思います。
アイリーン、君は身勝手に冒険する私に呆れもせず、一緒になって楽しんでくれました。
君と冒険した四年は、病気に侵された身体で横たわる私にも生きているという実感をくれた宝石のような日々でした。
本当に、ありがとう』
思い出話に寄り道し、昔やらかしたバカに触れ、それでも楽しかったと連ねられたメッセージ。
ポタリ、ポタリとキーボードに幾つもの雫が落ちていく。
「『出来ることなら、もっと冒険したかった』って、それは私が言いたいよ‥‥‥バカカイ。なんで居なくなっちゃうのよ」
聞いてはいた、受け止めたつもりにもなっていた。でも、本当は信じたく無かった。
カイが末期の病気ということも、今日が彼との最後の冒険になるということも。
ありがとうなんて、それは愛理が彼に言いたい言葉だ。何度も、何度も。
「また、話したいよ、会いたいよ‥‥‥」
ゲームこそトッププレイヤーとなったが、まだまだ冒険もしたりないし、なによりカイともっと沢山一緒に過ごしていたい。
暖かい彼の隣に帰りたい。
シワが寄り、色あせた枕に乗せられたヘッドギア。あれを被ればまた彼が待っているのではないか。そんな妄想が愛理の頭を過る。
妄想でもいい、彼と過ごした世界に行こう。
居場所のようでそうではない自室から、本当の居場所へ逃れようとするかのように、愛理はヘッドギアを再度装着した。
すぐに全身を心地いい眠気と温かさが包みこんでいくのに身を委ね、ベットへと横になる。
脳の伝達信号を一部カットし、データとして出力する過程で起こるリラックス状態。
まるで温泉に身一つで浮かんでいるかのような、和やかに揺蕩う感覚。
接続のチェックが高速で行われ、次第に現実の肉体からの感覚が鈍くなっていく。代わりにバーチャルゾーンでの実感が増していき、現実と虚構が界を曖昧にする。
やがて身体感覚は完全にアバターのものとなり、黒いドームの中心にポツンとアイリーンとして佇んでいた。
壁全体が発光体で出来ているのか、暗いけど明るいという矛盾した空間に、ぽつりと一つだけ扉が佇んでいる。
隔てる壁にはまっているわけではなく、ウィンドウされた商品のように、一つの独立したものとして佇む扉。
世界の扉とプレイヤー達から言われるこの扉は、ゲームをインストールした数だけドームに溢れ、最終ログインが近いものほど始発点近くに現れる。
そのためVRにどっぷり浸かった者ほど扉の数は多くなり、剛の者になれば展示会場のような有様になる。制作会社もゲームごとに趣向を凝らした扉をデザインしてくるものだから、それらが雑然と並ぶ様は一種壮観ともいえる。
『VRプレイヤーは何故か扉にだけは詳しい』リフォーム業者のそんな呟きがSNSで拡散されたのも記憶に新しい。
そんな中、愛理の扉は一つだけ。家庭からも学校からもはじき出された愛理を受け入れてくれた世界への扉が一つだけ。
愛理----アイリーンはそっと手を握りなれたドアノブへと伸ばす。
木のツタを絡み合わせたかのようなデザインの美しい扉は、まるでアイリーンを歓迎するかのように軽く開き、アイリーンの前には一本の道が示された。
森の中を行くような緑にあふれた美しい道が、まるでアイリーンを誘うように敷き詰められて行く。
「え、なに‥‥‥これ」
いつもログインするときはこんな現象は起こらない。ただ、扉を開けると「ログイン中です」と無機質なメッセージが表示され、一定時間後に最終ポイントへとプレイヤーを送り届けるのみ。
運営がこの少しの間で仕様を変えた? いや、それならそれでアップデートデータをダウンロードしなくては反映なんてされないはずだ。
後ろを振り返ればいつものドーム、前方には既に扉を飲み込み広がる深い森。
どうしようか、一度ログアウトしてからパソコンで情報でも漁ってみるか。
そう思いログアウト操作をしようとしたアイリーンだが、道の先に突き立つ二本の刀を見て、その動きを止めた。
普通の刀より若干短い、緑の巻糸を施した揃いの刀剣。
ずっと見慣れた、彼が好んで使っていたたそれが、アイリーンを誘うかのように木漏れ日を反射して輝いている。
「いいじゃん、いってやるわよ」
カイが誘っている、それはあの世への道連れのようなものなのかもしれない。
だが、それならそれでいい。
どうせ現実には居場所はないのだ。なら彼に付き纏ってやるのも良いかもしれない。
「‥‥‥よし!」
パン! と両ほほを叩いて気合を入れたアイリーンは、迷いない足取りで森の中へと一歩を踏み出した。
病弱武器士とコミュ障魔術師 3号 @tabito54
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