8. 陽光と月光 -Old Playmates-

 気がつくと、平原に立っていた。

 すぐ隣にはレティシアがいる。ラケシスとジルはペガサスの隣に立っている。少し離れたところには、レティシアとラケシスの愛馬が落ち着かない様子で地面を掻いていた。突然厩舎から馬がいなくなったわけで、ダルムシュタットの宿の人はさぞ驚いただろう。

 足下から伸びる街道の先に目を向けると、すぐにルサンの城壁があった。白い門の手前に、順番待ちの列が出来ているのが見て取れる。

「すごいね」

 ラケシスが呆然と呟く。フィルも同感だった。馬で三日もかかった距離を、一瞬で移動してしまった。

 空間を超える魔法は、失伝されて久しい遺失魔法のはずだ。もっとも、学院で失われた頃には、既にジプソフィラは産まれていただろうが。

「ね、良い?」

 ラケシスがヴィアナに綱をつけようとしている。まず綱を見せ、匂いを嗅がせてから、首に綱をかけた。ペガサスは首を振って少し嫌がる素振りを見せたが、すぐに大人しくなった。

「おめでとう」

 フィルはラケシスに向かって微笑んだ。一瞬きょとんとしたが、ラケシスはにっこりと微笑んだ。

「うん、ありがとう。レティシアも」

「ええ」

「これで無事に天馬騎士になれそう。ハインケス家もお取り潰しにならないだろうし……」

「そうね」

 レティシアが笑顔を浮かべてラケシスの背中をぽんぽん、と叩いた。

「ところで」

「うん?」

「いつから気が付いていたの? パピス村長が白妙の竜姫だって」

 レティシアがルサンに向かって歩き出しながら訊く。ラケシスは歩き出しかけた足を、ぴたりと止めた。

「ラケシス?」

 レティシアが振り返る。ラケシスは俯いていた。視線が足下に落ちている。大きく息を吐いてから、顔を上げた。

「いや、全然」

 曖昧に笑いながらラケシスは言った。

「全然?」

「全然気が付いていなかった」

 ラケシスはそう言って歩き出した。レティシアが目を丸くする。

「そうなの? 私はてっきり……」

「ううん。いきなりドラゴンに変身してびっくりした。腰を抜かすかと思った」

 ラケシスは曖昧な笑顔のままそう言った。

「じゃあ、あのとき、槍で突いたのは?」

「うん」

 質問を遮るようにラケシスは頷いた。

「気が付いていなかった。だから……、うん。そういうこと」

 ラケシスは足を止めた。

「あの時は、一番正しいって思ったから、ああした。パピスさんが死ぬかもしれない、って解ってても」

「……そう」

 レティシアは二呼吸置いてから、頷いた。ラケシスが頷き返す。レティシアが、もう一度、背中をぽんぽん、と叩いた。

「じゃあ、帰ろっか」

 街に向かって歩き出す。

 金と銀の髪が、朝日の下で軽やかに燦めいていた。

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