俺たちの彼女

水晶

【問題編】太一の彼女は

彼女

 

「太一、ただいま。」

 彼女が、帰ってきた。

 俺の彼女はけっこうかわいい。これを言うと変態だと思われそうだが、笑顔より、ちょっとむっとしたときの顔の方がかわいい。エッチしよって言うと、たいていは、いーよーと返ってくるが、ときどき疲れてるのかなんなのか、少し嫌そうな顔をするときがある。その顔が、好きなのだ。

 とは言っても、結局いつもしょうがないなー、と結んだ口の端をキュッとあげて、電気の紐をおろしてくれる。彼女は優しい。

「ねえ、見てこれ。雨降ってきたから折り畳み傘出そうと思って本屋に入ったんだけどさ、FiveのHiroyaがこの前ブログで言ってたやつ見つけてつい買っちゃった。」

 そう言って彼女が黒いビニール袋から出した本の表紙には、「誕生日アニマル占い大全集」というキラキラとした文字が躍っていた。女ってこういうの好きだよなー。これといって返す言葉もなく、へーそうなんだ、と窓の外に目をやる。ほんとだ、パラパラと降りはじめてる。明日も雨なのかな、サークルあるし雨はだりーな。スマホの天気アプリで確認するか。お、雨は今夜中には止むのか、ラッキー。

「…かだよね。はい、読んで。」

やべえ聞いてなかった。ま、いっか。差し出されたページに目をやる。あ、俺の誕生日んとこを読めってことか。どれどれ。

『2月21日のあなたは、優しき獅子。相手の心を気遣うことができる繊細な一面も持ちつつ、いざというときには細かなことは省みずに突き進む勇敢さも…』

どっちだよ。

『…あなたのそのたぐいまれなる大胆さを発揮できる場が必要です。』

 俺そこまで大胆かな、うーんどうなんだろ。細かいことは気にしないっていうのは当たってるけど、繊細な一面もっていうのは違うし、1勝1敗1分…勝ち点4ってとこかな。

「ねえねえ当たってた?」

 俺はまあまあかな、とだけ答えた。

「はい、じゃあ次。わたしの誕生日。当たってる?」

 彼女はページを開きなおし、指でとんとんと叩いた。んーと…こちらも、当たらずも遠からずってところかな。単純明快、一緒にいる人の気持ちを明るくさせるってところは当たってると思うよ、と伝えると、口を結んでにこっとした。嬉しそうだ。よかった。

 ん?待てよ。1月18日って来週じゃね。わー誕プレとかどうしよう。全然考えてなかった。でもまだ間に合うな、気づいてラッキー。…待てよ?もしかして遠回しに誕生日をアピールするためにこの本を買った、とか…?だとしたら策士だな。俺は頭の中で、「単純明快」の文字に「?」を書き足した。単純明快?な彼女の方を見ると…

「…でしょう。ふーん。高橋君ちょっとこういうとこあるかも。1月2日のあなたは…」

え、全ページ読む気かよ。俺は、課題やってくると言って部屋へ帰った。

   *

 今日は火曜日だから俺が飯作らないとな…って、テーブルの上にすげえキラキラしたものがあると思ったらさっきの本か。いくらなんだろ、これ。1200円?たけえ。…お?本のまんなからへんに挟まってるこれなんだ?『あの感動を、大スクリーンで。』ああ、大学の近くで配ってたパブリックビューイングのチラシか。こんな本よりサッカーの方が絶対おもしろいよなー、うん。

 飯を作り終えて、二人で食べ始める。これ、1200円出した価値はあったのかな。感想をきいてみると、

「唯ちゃんと加奈ちゃん二人とも12月29日なんだけど、性格正反対なのね。でもどっちにもなんとなく当てはまってるような感じして、なんだかなって思った。」

 それ、気づくのおせえよ。

   *

 後片付けがひと段落付き、ふとんの上でだらだらとテレビを見る。ふと彼女の方を見ると、スマホを触りながらにやにやしていた。…誰とラインしてんの?その緩んだ口元の可愛らしさに駆り立てられ、普段絶対聞かないようなことをきいてしまった。

「えー、なに?サークルの先輩だよ」

 彼女は、スマホを見つめたまま答えた。



–あなたは、彼女が浮気をしていると思いますか?

思う方は次の章へ、思わない方は次の次の章へお進みください。

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