第15話
何だかんだやっている内に、どうやら戦争は佳境に突入したようでした。といっても、それはそろそろ我が軍が全滅しそうだということを意味していて、兵隊さんたちの性欲処理係であるところの私はここのところ全く出番がありませんでした。しょーっく。
……といいますか、もう既に生存者が私くらいでした。おそらく私以外全滅です。かつて私と共に生きて、私を求めてくれた彼らは血液や肉塊を撒き散らして地に突っ伏していて、知的生命体の面影もなくただの有機物へと成り下がっていました。
………。
……。
…。
寂しいです。
そうでした。私は寂しがり屋なのでした。
どれほど壊れていようとも、どれほど頭のよい人の真似事をして討論を楽しんでも、その根底にあったのは、必死に誰かを求めていた、寂しがり屋の孤独なのでした。だから理解者を求めて旧時代にまでやって来て、男性に求められるように美しくあらねばとバタイユまで読んだのです。
孤独。
今は、誰も私を求めてはくれません。
誰か、私を見てくれませんか?
誰か、私を聞いてくれませんか?
誰か、私を嗅いでくれませんか?
誰か、私を味わってくれませんか?
誰か、私に触れてくれませんか?
……私を一人にしないで下さい。
「……あ」
目の前に広がる肉塊が動いたような気がしました。いえ、あれはまだ肉塊ではありません、生きた人間です。
グチャグチャと地を駆けて生存者の所へ向かいます。近づくと、それが誰だかの判別が出来るようになりました。
「……ぅ……ぁ」
何と、生存者は彼でした。そうです、過去知識人の真似事をして討論を楽しみ、戦時中、多くの時間を共に過ごした彼なのでした。兵士さんの中で唯一、バタイユの説に逆らって私の体を求めようとはしなかった彼なのでした。彼はいつだって私と他愛もない話をすることを望み、決してそれ以上は踏み込んでこなかったのです。
「……■■■」(聞き取れませんでした)
僕たちは負けたのか、と彼は大して悲しくも悔しくもなさそうに確認しました。
「そうか……」
と言って、
「じゃあ、やっと君も解放されたんだ。これでゆっくり、これからも君と話が出来る」
と彼は続けました。
……。
鳥肌が立ちました。
困惑の鳥肌です。
新しい、求められ方でした。
そうです、何も孤独という空虚を、男性からの肉欲で埋める必然性はどこにもなかったのです。私は、バタイユの通りに美しく高潔でなくとも、求められることが出来たのです。
嗚呼……ああ……アア。
雲が退いて、新しい道が開けたようでした。
頭の中には舞踏会会場。
ドヴォルザークのスラブ舞曲第一番が、壮大にそして優美に流れています。何という広がりのある曲なのでしょう。可能性という輝きに満ちていました。
私は……。
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