第8話

 翌日。

川で体の汚れを洗い流すために水浴びをしていると、彼がやって来ました。手には多くの衣類があります。洗濯でも任されたのでしょうか?

 軽く挨拶を交わして、彼は私よりも下流で作業を始めました。清流に糸のような汚れが雑じり、広がります。

「清らかさと美しさは同義になると思う?」

 私と同じようなことを考えたのか、彼が口を開きました。その声は不思議と水の流れる音に紛れることなく、私の耳にしっかりと届きました。

「僕は違うと思う。むしろその二つは全くの真逆で、きっと永遠に交わることはないんだ」

「どうして?」

「人間が生きるということが、もう既に汚いからさ」

 いや、人間に限らず、この世の生命全てがだ。

 人間は有機だというのに、有機を嫌い無機を求める。

 混合物でない純粋なものを美しいとして、

 混合物である不純なものを醜いとする。

 思い出してごらん、徴兵前にいた都市を。

 有機なんて、人間と食糧ぐらいのものだったろう?

 人間が無機を求めることそれ自体が、

 僕にはどうしようもない矛盾に思えて仕方ないんだ。

「私は、美しさが清らかさを包含しているのだと思う」

「えっ?」

「所詮、美しいなんて主観の言葉、相対の中でしか生きないじゃない。各人の認識によって美しいの定義も常識も変わる。この栄養をほとんど含まないために魚も棲めない清流を美しいとする人もいれば、多様な生命を育むアマゾンの混沌を美しいとする人もいる」

そう、この世に存在する全てのものは、皆一様に『美』という可能性を孕んでいるの。

 それって、とても『美しい』とは思わない?

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