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桜人

第1話

 むかしむかし、あるところにいっぴきの『たぬき』といっぴきの『きつね』がいました。にひきはいえがとてもちかく、いつもなかよしです。

 あるひ、たぬきがたべものをさがしてあるいていると、きつねがうれしそうにしているのをみつけました。

「やあたぬきくん、いいものをみつけたんだ」

 そういってきつねはそばにあった『かめ』をさします。

「かめのなかをよくみてごらん。そうさ、このかめには『みつ』がはいっているんだ」

 きつねはくぼみのあるとくちょうてきな『き』をつかってみつをかめからすくい、それをおいしそうになめました。たぬきはそれをじっとみつめています。

「ああ、なんてうらやましい!」

 たぬきはおもいました。

「ぼくがあとほんのすこしでもここにはやくきていたならば、そのみつはいまぼくのうでのなかにあったというのに」

 たぬきはうらやましさにもんもんとします。どうにかしてあのみつをてにいれられないだろうか、と。そこでたぬきはあることをおもいだしました。いったんいえにかえって、たぬきはあるものをきつねのまえにもってきます。

「きつねくん、そのみつをぼくのこれとこうかんしてくれないかい」

 たぬきのてにはきれいな『いし』がにぎられていました。そのいしはさんさんとかがやいていて、まるでほのおをとじこめたかのようにきらびやかでした。

「うぅ……」

 きつねはうめきました。どんなにおいしかろうと、このみつもいつかはきえてなくなってしまうのです。そうかんがえると、きれいないしはずっときれいなままで、いつかこんかいのたぬきのように、なにかのやくにたつかもしれません。いまのきつねにはかなりみりょくてきでした。というのも、きつねはさっきからいままで、なんどもなんどもたくさんのみつをくちにふくんでいたので、そろそろみつのあじにもあきていたところだったのです。

「うぅぅん」

 なやんだすえに、きつねはみつといしとをこうかんすることにきめました。たぬきはおおよろこびです。

「ありがとう、きつねくん! やっぱりきみはぼくのしんゆうだよ」

 いしとみつとをこうかんし、ぶじにみつをてにいれたたぬきはほおをゆるませながらだいじそうにかめをかかえ、もときたみちをかえっていきました。



「うぅぅん」

 きつねはあたまをかかえていました。だんだんときおんがさがってきており、そろそろふゆをこすためにえいようをたくわえねばならないところなのですが、きつねはおもうようにたべものをてにいれられていないのです。たぬきとこうかんしててにいれたきれいないしも、みんながみんなじぶんのえいようをたくわえることにひっしなせいで、だれもたべものとこうかんをしてはくれません。きつねはおなかがすいておなかがすいて、もういまにもしんでしまいそうなくらいこまっていました。

「……おや?」

 と、きつねはいくさきにいつぞやみつといしとをこうかんしたあいてであるたぬきが、みずばでのんびりとしているところをみつけました。きつねはこえをかけます。

「おぅい、たぬきくん」

 たぬきはゆっくりみをおこしながらきつねにこたえました。そのひょうじょうはしあわせそうです。

「どうしたんだい、きつねくん。がりがりじゃないか。えいようをとれていないのかい?」

「そうなんだ。このままだとうえでしんでしまうよ。……そういうたぬきくんはずいぶんとかっぷくがいいようにみえる。すまないが、なにかたべものをこのいしとこうかんしてくれないか」

 きつねはだめもとでこのあいだたぬきとこうかんをしてえたきれいないしをまえあしにのせてたぬきにみせました。いしはあいもかわらずきれいなままです。

「うーん……」

 たぬきはまよいました。たぬきのいえにはまだあのときいしとこうかんしたみつがのこっているのです。たぬきもかなりみつをいただいたはずなのですが、みつはまだまだかめのなかにたくさんのこっていて、じつのところ、たぬきがこうしてふゆにそなえてえいようのたくわえができているのは、ほとんどがこのみつのおかげなのでした。

「(ぼくはもうふゆをこせるほどのえいようをせっしゅすることができたし、なによりこのまえのこうかんは、あたりまえだけどいまのみつよりももっとたくさんのみつがあったはずなんだ。こんかいのこうかんをすることでぼくにあのきれいないしがもどってくるとすると、それはひょっとしてぼくがとくをしたことになるんじゃないか?)」

 たぬきはいしとみつとをふたたびこうかんすることにきめました。いったんいえにもどってみつのはいったかめをもってきます。このこうかんにはたぬきもきつねもおおよろこびです。たぬきはにかいのこうかんによってえたりえきに、きつねはこのいしがじっさいにやくにたっていのちをすくってくれたことに、にひきはそれぞれほおをゆるませながら、じぶんのいえへとかえっていきました。



 ふゆをこえたあるひ、たぬきはきつねがおいしそうにかめのなかのみつをなめているのをみつけて、またもうらやましくなりました。あのみつはまだなくなっていなかったのかと、さむいふゆをこえたばかりのたぬきはおなかがきゅるきゅるとなるのをかんじました。いま、たぬきのまえあしにはれいのきれいないしがにぎられています。

「やあきつねくん。もういちど、このいしとそのみつとをこうかんしないかい?」

 さいわいにもきつねはそのもうしでをこころよくりょうしょうしてくれて、たぬきはぶじにみつをてにいれることができました。



 そのまたあるひ、きつねがたべものをさがしにそとへでていると、たぬきのいえからあまいにおいがただよってきました。このかおりはまちがえようもありません、たぬきとなんどもこうかんをしたはずのあのみつのものでした。なつかしいほうこうにがまんできなくなったきつねは、たぬきにわるいとはおもいつつもたぬきのいえにしのびこんで、きれいないしをおいたかわりにみつのはいったかめをもっていってしまいました。



 このようにして、たぬきときつねとはかめのなかのみつのしょゆうけんをめぐって、なんどもなんどもみつがなくなるまでいしをつかってこうかんをしつづけました。

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