序章②

 『神のガチャ』。

 そう呼ばれるものが、この世界に種類はあれど点在していた。ガチャの中身は等しくカードで、たとえば『鉱石カード』であれば手に入れた後に実物化させることが可能であり、それは『彼女カード』のような人間であっても関係ない。カードに封じられたものが、イコール所有者のものとなる。

 神様がこんなものを用意した理由は定かではないが、『貧富の差が固定されている現状を憂いたから』だとか『七つの石を集めて召喚した』だとか『気まぐれ』だとか、諸説ある。ただ一つ確定的な事実もあるのだが。

 ――とまれ、このガチャが生まれたことによって世界の情勢は一気に変貌を遂げた。下剋上が頻発するようになり、文明も急激に進歩した。その中でも一番の変化と呼べるものがある。

 それが、野球。

 今や野球の勝敗で国の統治が決まるようになり、統治者も変わる。大舞台での試合では大金が動き、賭け金も相当含まれている。三日天下なんて日常茶飯事、という馬鹿げた時代も存在したらしい。

 野球の試合に出るのも当然ガチャから排出される選手カードである。『コモンガチャ』とは別に、『選手ガチャ』というので引かなければならない。一回でかかる費用も前者とは比べ物にならないのだ。だからといって、大金持ちがやはり有利かと言えば一概にイエスとも頷けない。『選手ガチャ』を引く――つまり『監督』の立場に収まるには、ある特定のカードが必要となるのだ。

 それを『マネージャーカード』、と呼ぶ。ただ選手の健康管理をするだけでなく、チーム運営に関わる金銭管理も執り行う。むしろそっちが本分と言わんばかりなので、通称『マネーカード』とも呼ばれている。

 選手もそうだが、人物系カードには限りがあり――時折神様が追加してくれることもある――、マネーカードはレア以上しか存在しない。カードショップではレアで最安値でも百万超え、Sレアともなると一千万を優に超えてしまう。『コモンガチャ』にもSレアは一、二枚しか入っていないのである。それでも貧者より富者の方が有利なのは確かだが、運で形勢をひっくり返せるのだからまだ良心的と言うべきだろう。

 『監督』は最低限九人揃えることで試合を組むことができ、けれどまだそこで終わりではない。今度は同じ『監督』同士で鎬を削ることになる。どちらのカードが上か、どちらの手腕が優れているかを競い合うのだ。

 ――弱肉強食を最も表現したと謳われるこの野球界は、ある時を境に戦乱に呑み込まれていく。その渦中に割り込む者が、齢十九の少年だとは誰もが及びもつかなかった――――

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