第70話 狂気に勝る情は無し

 無理矢理次元の孔を抉じ開け、向こうの世界オルタネイティブへたどり着いた俺。

 何か暗いし息が出来ないと思ったら、とんでもない場所に降り立っていやがった。


 蒼い地球が綺麗だぜ。

 っじゃ、ねぇよ。

 綺麗だぜじゃねぇよボケ。


『…………おい』

『どうした』

『ここ、月じゃねぇかよ』


 そう、月だ。

 地球の兄弟、影なる光のMoonだぜ。

 いやいやいや、何でよりにもよって月に辿り着くんだよ。

 せめて地球の何処かにしとけよまったく。


 呼吸系一時停止、ジェネレータ出力上昇。

 血中酸素生成兼調整系統B・O・L コントローラー起動。

 生命活動に問題無し。


『多少の誤差は容認して貰えると思っていたが』

『誤差の範囲広すぎない?』

『太陽系内にまで絞る事が出来たと認識して貰いたい』

『無茶苦茶過ぎるぜ……』


 地球の外見全く変わらねぇな。

 まぁそりゃ、複製世界だし当たり前か。

 一体どういった方法でこんなん出来たんだ、それらの手法も無視したのか俺。

 出鱈目にも程があるわ。


 いやまぁ生身のまま平気で月に立ってる俺も大概だが。半分機械だしな。


『まぁ良いけど……よしジェイク、こっちのリトラには気付かれてねぇよな』

『問題無い。アンカーにもステルスを掛けてある』

『流石だ』

『一番に注意すべきは、《超越脳力エクスオーバー》所有者の沖本 優だ。彼女の能力が第三指定解除まで及んだ場合、我々は間違い無く発見される』

『俺の予想通りなら、邪魔しないでくれるんじゃないかと思うけーどー……もしそうだった場合察してるのは信ぐらいしかいなさそうなんだよな。辛い』


 さて前項を読んでる読者なら、大体はお分かりだろ。

 向こうの俺は、回りくどい方法でもって俺らを強くしようと考えてるんじゃないか。ってのが俺の見解だ。つまりはある時点でのセーブポイントを設けて、死に戻りにも似たチートコマンドを利用して強くてニューゲームを実現したのではないかと。

 その真相を探るべく、こうして消えた俺を再構築しようって話だ。あわよくば望み通り統合して強くなったり?


 仮にもし母ちゃんの言う通り環奈を狙ってた場合は、例え俺でも許しはしない。容赦無く殺す腹積もりだ。あくまでも仮定上の話だが。

 そもそも俺が同じように環奈を失ったと仮定して、それでここまでやるかって話なんだよな。しない。少なくとも、同じ俺からまで奪おうなんて絶対思わない。大体、環奈が消えるなんて状況は作らせない。


 そんなわけだから、まずは俺自身に真相を聞く。

 後の事は後になってから考えれば良い、俺には《思考世界メタサイド》がある。向こうも《思考世界メタサイド》がある。両者同じ思考世界で気の済むまで話そうとするはずだ。もし意見が食い違った場合は、な。


『まぁ良い感じに転がる様、俺ん中の神様にでも祈っておくとして。行くか』


 《翼式加速飛行ウィングブースト》で地球へ向かい、徐々に速度を上げていく。

 亜音速、遷音速、超音速、極超音……亜光速の一歩手前でスピードを維持。あんまり速すぎると機体にダメージが入っちまうしな。球状に展開した粒子パーティクルアーマーのお陰で負担は少ないが、それでもこれが限度だ。


 減速に必要な距離を鑑みて移動し、約3分強で接近完了。

 一旦進行を止め、専用ガレージ型隔離世から追加装甲を取り出す。


『各部異常無し。黒の御使いシュヴァルヅェーラフ、これより大気圏へ突入する』


 全身防護の戦闘機形態へ移行してから、機体を斜めにして滑空体勢に。熱の壁は粒子がある程度凌いでくれるため、さほど危険も無く地球へ侵入成功。雲の辺りでホバリングし、追加装甲を外してガレージに戻してから再び《翼式加速飛行ウィングブースト》。


「ふうっ、あっつぃかったわ……んじゃ再度確認するぞ。残された情報を元に記憶の再現。肉体は、多分"こっちも予備を用意してる"だろうからそれを使う。だったな」

『おおよそ間違い無い。作戦内容は逐一変わると思われる、その際のオペレーションは任せるが良い』


 本当心強いわこのオッサン。


『サルベージ開始。神条 神鵺を構成する要素を集積し、存在を修復する』

「目的地は、当然憩いの我が屋敷っ」


 実はルルイエから帰る際にちまちま行っていたバージョンアップを経て、俺の機体にはブースターが積まれている。そいつも噴かして、安定性の更に上がった飛行体勢だ。アラブ共和国はシリアから、日本列島の北海道O市郊外まで凡そ一時間強、マッハ5以上の極超音速でひとっ飛びだ。亜光速弱よりは全然遅い。安全第一。


「よし着いた」

『ステルス強化の為に、ここからは思考通信を行う。意図的に音を出せば聞かれるぞ』

『フリかな?』

『見付かりたいならふざければ良い。私としても戦闘は歓迎する。無論、間違い無く作戦成功率が著しく落ちてしまうが』

『冗談って言葉を知ってるかオッサン。まぁ良い、やるぞ』


 胸部装甲の背面から、小型の飛行ドローンを射出。追従型偵察機リコンだ。勿論これにもステルスを掛けてある。抜かりは無い。

 さて、今のところ敵性個体はいないようだな。


『邸内部へ侵入後、地下の保管庫へ移動。予備の肉体クローンを先に確保する』

『頼むぜぇソイツが無いと修復は難しいからな』


 これまた実は、とある大学教授との交渉の結果、クローン技術研究の一貫として俺の予備機体を作る契約が結ばれていたんだ。もし機体が壊れ、肉体的死を迎えてしまった時に復活する術は無いか考えててな。死んだ瞬間即座に魂と精神を避難させて移送させ、別途用意したサーバにアップデートしておいた記憶バックアップと共に別の肉体へ宿す事で復活出来ないか。その実験を行う為の予備肉体用クローンを、邸の地下深くに隠し持っていたんだ。


 もし俺がジェイクと世界統合リングオンしていなかったら、浮かばなかった発想だろうよ。くそぅ、サーバさえあれば記憶データが保存されていたかも知れないのに、また怠惰に甘えやがったな俺の馬鹿。用意を怠ってたとは容認出来兼ねるぞまったく。我ながら嫌な奴だ。


 まぁ、魂までは修復出来るか分からない。

 最低限、記憶を格納してクローンを起動するだけでも良い。この戦争の発端を洗い出し、即刻取り止める為の情報を手っ取り早く本人に聞きたい。もう母ちゃんからの言伝ことづてすら期待しない。俺の事は俺でやる。


 っと、そろそろ保管庫に着く頃だ。

 ステルスゲーばりに静かだな、余裕があれば脳内BGMでも流してたのに。


『……偵察機リコンに反応は無し。パイロット、そちらの勘は如何か?』

『……いるな。誰かは知らんが、嫌な思念を感じる』


 配下達にも知らせてなかった保管庫に、誰かがいる。

 もしや、消えたと欺瞞情報を流してここに俺が隠れてたってんじゃねぇよな。

 止してくれよそんないかにも俺が考えそうな事。


 程なくして、地下深くの肉体保管庫へ到着。

 自動ドアの開いた先で、一人の人物が俺を待ち構えていた。


「……」

『……なるほど。確かに、貴様ならば偽装は容易だろう』

「何故お前がここにいる」

「……”貴方”に、貴方の代わりとなってもらうためですよ」


 恐らくは今回の黒幕であろう人物。

 ソイツの右手中指には、蔦の装飾が施された銀の指輪リング

 そして、その隣の薬指には黒金剛石の指輪ブラックダイアモンド・リングが納まっている。

 嗚呼、そうか。俺の苦手な方面で、無意識に注視しなかった所が色濃い理由だったわけだな。そりゃぁ、気付かないわ。”人の心が分からない”俺には考えも及ばない事だったな。


「その指輪……”俺”はその軸で100%浸蝕されたわけだ。何が起こった」

金緑変石アレキサンドライトの消失ですよ……あの女が、貴方の言う事も聞かずに巻き戻しなんてするから……! 魂を呑まれて、名前も思い出せなくなって、どんな子かも分からなくなって……!」

「……」

「やっと……やっと見付けた貴方の形見なのに……何で、コッチが偽物だなんて決め付けられなきゃいけないんですか……!!」

「……何?」


 ソッチが偽物だなんて決め付け。

 どう言う事だ。まるでコッチが……。


「……――ッ!?」


 止せよ待てよまさかそういう事か嘘だろおい。

 ってぇ事は、今の俺らが。


「貴方が魂はたいて作り上げたのに! 何で! 複製物デュプリケイトにコッチが複製だって言われなきゃならないんですかッ!!!」


 ――俺らの世界がコピーってわけか!?

 そんでその事実に気付かないまま、定められた歴史を辿って。

 そしてコッチでは、コイツが偽装工作して。世界を騙すだけでは飽き足らず、よりにもよって親友まで欺いていた、と。

 その欺瞞情報を掴んだ母ちゃんが、見事騙されたってわけで。


 嵌められた!? しかも二回目!?


「本物は私達です! ”貴方”なら理解出来るでしょう! ずっとこの時を待っていました――黒金剛石ブラックダイアモンド!!」

「あっ、馬鹿お前っ!」


 黒金剛石ブラックダイアモンドの力を得てしまったら。

 それはつまり、魂を呑まれる可能性が出て来る事で。

 下手したらコイツが消えてしまうかも知れないって事でもあって。


 何だよこの泥沼な状況!?

 俺を取り巻く世界ってこんな拗れた関係図だったの!?

 キツいです!?

 こんなおどろおどろしい女の激情の中心にいたくないです俺っち!?


「”貴方”を奪って、私の貴方を取り戻す!」


 不味い。


 不味い。


 不味いぞ攻略法が分からない。


 《思考世界メタサイド》へのログインも妨害されてる。


 どうすりゃ良いんだ。

 どうすりゃコイツを殺さずに止められる。

 おい回答者アンサラー何してるんだよ、どうすりゃ良いんだよ!? おい!?


「待て待て待て待て止めろ馬鹿!?」

「《自己契約セルフコネクション》!」


 こんな事でお前が消える危険背負う必要無いだろ!?

 止めろ今すぐソイツとの繋がりを絶てこのド阿呆!!




「あぁくそっ! リトラ!」



…………

………

……



 人々の怨念が形を持って、その存在を囲むように飛び回る。

 黒い羽は靄を纏い、よりどす黒く淀んでいた。

 


 リトラ=デビリッシュ。

 かつて黒金剛石ブラックダイアモンド狩猟者プレデターと契約していた彼女は、その男を象徴する石そのものとの契約を果たした。


「……大人しく、器になって下さい。遺されたのは、もう”貴方”しかいないんです。神鵺さん」

「……リトラ」

「傷付けたくは無いんです……お願いですから、こちらと統合して、元に戻って下さい」

「リトラ」

「神鵺さん、魂をこちらへ明け渡して下さい……!」

「…………んと……な」

「……?」


「……――随分と都合の良い言い草だな、おい」












 世の中本当にクソだなって、思った事はある?

 少なくとも俺はある。何度も。

 勿論しょーもない理由ばっかよ? 先生に説教された時とか、人のネガ思考にぶつかっちまった時とか。本当ちっさい事でね。


 けどさ。


 これほどまでに世の中クソだなって思った事は無ぇよ。


 何で、俺を中心に愛憎が入り乱れるのだね。

 何で、俺は人の心が分からないのかね。

 何で、運命はこうも残酷なのかね。

 何で、俺は苛ついてるのかね。

 何で。

 何で。


 何で何での疑問と憤りばかりだよ。


 ムカつくねぇ。

 何でよりにもよってこの物語で初めて会った女と、こんな形で相対しなきゃいけないんだ? えぇ? おい?


 バトリスでミキと話した時の事は聞こえてなかったのかなぁ。

 俺を攻撃して楽しいのか世界。

 そうして俺を甚振るのがそんなに楽しいのか世界よ。

 仕返ししてきた男の子に、もっと手痛い傷を負わせてやろうってか?


 そうやってわざわざちょっかい出して来るのが、何の合理性も無いお遊びが、俺の平穏を揺さぶるその悪戯が、何よりも何よりも。

 な”ぁ”に”ぃ”よ”ぉ”り”ぃ”も”!!!!!

 嫌いだって事を知ってて。

 わ”ぁ”あ”ざと”や”っ”て”ん”の”か”!?


 率直に言って。


「っざぁけんなクソがぁ

ああ”ッ”!!!!!!!」 轟ッ!!!

「――ッ!?」



 尻もち着くぐらいなら何故その石を選んだ悪魔。

 女って奴は、他人って奴は、何故こうもネガティブだかアクティブだか分からんおかしな事をし出すんだ。”俺”が何したんだ! お前の事抱いたのか! やりかねないから怖えぇなおい!?



「俺の性格は良く知ってると思ってたはずなんだがな。またか、また俺を苛付かせるのかリトラ」

「ぇ、ぁ……」

「コッチだソッチだと。まぁあたつまらん事で俺を苛付かせるのか」

「ぃゃ、そういうわけじゃ……」

「なぁ頼むよリトラ。俺そういうの求めてねぇんだわ。下らん感情で不利益被りかねない事するのは止めてくれや、おい?」

「……下らん感情……って……!」

「『私がどれだけ辛い想いをしてきたか!』だろ分かるわそんぐらい。で、何?」

「……ゎ……ゎたし……コッチの……」

「……俺じゃ不満なわけ? この私と仲良く生きて来た神条 神鵺が良いんです大人しく魂渡して下さいってか? しかもそのために? 世界まで使ってましたって?」

「……」

「どうなの?」

「……ハ……ハイ……」



 正直に言えたな。

 良く出来ました。



「――好い加減にせえクッソ大馬鹿モンがぁ!!!!!」

「……ぁ……ぅ……」

「俺を怒らすなクッソめんどくせぇ女だなぁ!!!! 話を聞く限り、何、複製した魂でもコッチと統合すれば一緒ですって事ぉ? んだその破綻した理論聞いた事ねぇわ証明不可能だド阿呆!! 現代哲学を論理や物理と混同してんじゃねぇぞアリストテレスに謝って来い!!! 皆にも謝って来いこの”クソガキ”がぁあ!!!!!!!」

「…………そんな……そんな全否定しなぐでも”ぉぉ……!」


 あぁぁああぁぁああああもう今度は泣き始めたし!

 お前今何のために黒金剛石ブラックダイアモンドと契約したよ!?

 っつうか良く見たら指輪の鉱石変わってるし、何ですかそれ、ひび割れたピンクぅ? 紅玉ルビー? あぁ違うわ、黄玉トパーズか。


 それが本来お前を象徴する石ってわけだ。

 黒金剛石ブラックダイアモンドはお前の身の丈に合わなかったって事だな。

 つうか、お前そんなボロになるまで待ってたのかよ本当に馬鹿だなまったく。


「……はぁぁぁぁ…………泣くぐらいなら初めからこんな事すんなって。って、あぁーもう」


 しゃがんでやったら抱き着いてボロ泣きだし。

 会いたかったなら会いたかったで済む話なのにめんどくせぇ女だなもう。


「だっで……だっで私も神鵺さんに会いたかっだのに……な”の”に”そ”っちで環奈さんと”い”ち”ゃい”ち”ゃし”て”る”し”!」

「お前それが襲撃の理由か」

「神鵺さ”ん”か”悪い”ん”て”す”も”ん”私今ま”て”頑張って”探し”た”ん”て”す”も”ん”馬鹿ぁ”ぁ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”あ”あ”あ”……!」

「……はぁ……辛かったのは分かったから、後は俺と環奈で……」




 ち ょ っ と 待 て 。




「環奈」

「ずびっ……何ですか……」

「お前今環奈っつったか」

「そうですけど……」

「……コッチの金緑変石アレキサンドライトは何処やった?」

「そりゃぁ、クロウさんが持って……」

「……その女の名前は」

「…………天……宮……環奈」

………………ぽく ぽく ぽくチーン


 そうだよ。

 そういやそうだよ。

 って言うかそうじゃないと”俺”がまるまる複製するわけねぇだろ。


「そうだよコッチの女を世界と一緒に複製したんじゃんそりゃコッチと同じじゃねぇとおかしいべ!」

「……でも、それは……」

「どぉっちも同じもんだろ!」


 ”まったく同じモノ”を作る事も造作無いんだ、俺の真我は。

 そして狡賢い俺の事だ、魂が指輪に呑まれる事も、そしてそれが悪魔の許へ行く事も承知の上でこんな事をしたんだろうよ。復活する気満々って事じゃねぇか。


「もともと”俺”がその為にこんな大仰な事しでかしたんだろが。ってかこうしちゃいらんねぇよ。同じ歴史を辿るって事は、もうそろ向こうで特異点シンギュラリティが発生するんだろ。コッチで起きた環奈喪失イベント」

「……あっ」

「もぉぉおおぉぉお本当めんどくせぇ事になってんなまったく!」

「って、そっちエレベーターと逆……」


 おっと。

 肉体保管カプセルに近づいたは良いが、指輪が無いとだったな。


「来い」

「えっ」

「良いから」

「……は……はい」

「石が魂を呑み込むんだったか。しかし俺はその前にこの世界となって消えたって情報を掴んだ。真相はドッチだ」

「……私も、正確には分かりません。ドッチが先だったのか」

「んじゃこれで分かる」

「そんなサラッと!? もし望み通りの結果が得られなかったらとか、そんな風な事考えたり!」

「やらずに後悔するよか遥かにマシだろ。格言もある事だしな」


 コンソールを操作し、集積した記憶を直接肉体に搭載してあるコアコンピュータの記憶領域へ転送完了。脳の覚醒を確認。心肺活性。各種ジェネレータ接続及び稼働を確認。生命活動に異常無し。

 カプセルを開き、出て来た生まれたての肉体とご対面だ。


「気分はどうだ、器1号」

「胸に穴が開いたようだな。何て言うか、とても辛い」

「……神……鵺、さ……」

「リトラ、指輪を」

「……!」


 初めの頃を思い出すな。

 リトラが指輪を二つとも外して、片方を”俺”に持たせる。

 そんで、互いに右手中指へ嵌める。

 二人を眩い光が包んで、其の中で互いに指輪へキス。


 ……おっと、イレギュラー発生か?


 コイツら、光が収まる前に接吻キスまでしやがった。

 ヒュー。我ながら熱いね。まるで呪いを解くためのキスだ。

 好きよそういうロマンチックなヤツ。


 さてと、光が収まった。

 どれ象徴の鉱石は何を示してるかな?


 ……ビンゴだ♪


「……黒金剛石ブラックダイアモンド、か。確かに、俺は俺のようだな」

「……神鵺さん……~~……ッ! おかえりなさい!」


 ワォ。抱き着いた。

 うーん目の前で自分がイチャつかれてるのを見るのは何とも複雑だが美形なのでOK。


「呑まれたってのに随分アッサリ復活しやがったな、”俺”」

「……そりゃ、相棒のキスが引き摺り出してくれたからな」

「ぁっ……」


 俺の目の前で悪魔を抱き寄せてんじゃねぇよ全裸変態。

 って、待て、この言い方だと俺まで変態に聞こえ。


 そうだ俺変態だったわ。


 そしてリトラ、さっきまで散々罵声浴びせられてボロ泣きしてたのに今度は赤面ですかそうですか。

 相手が同じ俺でもムカつくわやっぱ爆発しろ貴様ら。


「で、どうするよ。お前の愚かな行いのせいで、コッチは大変な目にあってるぞ?」

「ケジメはキッチリ付ける。っつうか、俺とジェイクの関係を鑑みてもその辺り分かるだろ?」

「まぁな」

「……? どう言う……?」


 簡単な事だ。


 俺らみたいな超越者同士が互いに望むなら、世界統合リングオンして互いの存在を維持しながら同一個体になる事が出来るってだけの話。俺とジェイクがまさにその例だ。だったら、ここまで近しい同列存在ドッペルゲンガーならどちらかが消えるなんて事はまず無いって事。つまり今なら優ですら両方消える危険無く統合可能って事にもなるね。


 いちいち争う必要も無いって事だな。

 そうか、優はこの事を予知していたから特段何もしてこなかったんだな。


 まぁ信達には、念のため存在を維持するアンカーを忍ばせておいたんだが。

 ソイツは必要無くなりそうだな、こりゃ。


「……えぇぇぇぇぇ…………なにそれ……」 へな……

「プギャァアアアwww」

「相変わらず俺ら周りのやる事なす事踏み躙るよな」

「超気持ち良いです本当にありがとうございましたぬ”ぅははははは♪」

「く、ふふ、ぬはははは♪」

「「ゔぅはははははははははははははははははは!!!!」」


 おん? どうした世界?

 こんなふざけた展開で良いのかって憤ってんのか?

 良いんだよこんな展開で。葛藤とかそう言うアレコレはうんざりなんですいやマジで。


 ようやっとこの物語らしくなってきたじゃぁあーりませんか。

 そうだ、悩みだとか何だとかくだらねぇモンはブチ壊すのが最高に気持ち良い。

 解決だとか解消だとかの方が良いんだろうが、俺はそこで敢えてブチ壊す。


 俺がつまらんと判断した物語は木っ端微塵に粉砕して呆れるような駄作に陥れてやんのよ。そんでソイツでこっぱずかしい想いする奴らを盛大に嗤ってやるんだ。




 俺を嗤う者は皆破滅だ。




「「その依頼、引き受けた」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る