第64話 その本質は
嘘だろ。
嘘だろおい冗談だよなお前ら。
環奈の指輪が、もう半分以上も侵蝕されてるだと。
何だよそれ、何時の間にそんな事。
幻覚とかその類だよな。
クトゥルフが悪夢を見せてるんだよな。
知ってるんだぞ、ルルイエに来た人間はほぼ例外無く全員狂うって。
これは、そう言う事なんだよな。
最悪の結果を目の前に見せて、俺を絶望させようって魂胆なんだよな。
いや待て、もしこれが事実だったらどうする。
環奈、お前何をした。
何を願いやがったお前。
「神鵺、どうしたん……!? おい何肩掴ん、で……神鵺……?」
「環奈……お前、何か願っちゃいかん事願ったりしたか……」
「……んだよそれ、私は何もしてないぞ。何なんだよ一体」
「……」
俺と同じ、使った本人すらも記憶を失う様な願いだと?
それが、2回?
何が起こった?
何が2度も環奈に禁忌を冒させた?
今までにもあったって事は、これからも同じ事をコイツが願うって事だよな。
「……~~……ッ」
落ち付け。
冷静を欠くな
文字は送るな。
”俺”が自分で考える。
「……ふぅ……環奈、まず先に言っておく事がある」
「な、何だよ……ぁぅ」
頭でも撫でておくか。
「何時も通り我を突き通せ。俺達は、
「……」
「俺もそうする。そんだけだ」
そうだ。
俺自身が環奈を失いたくないように、環奈にも願いはある。
どちらが上かなんぞ決まらん。決めて良いもんじゃねぇ。
だから、俺自身の内にある、この相反する欲望に優劣を付ける事も許されないし許しはしない。
「……神鵺……」
「……ジェイク……"見る"ぞ」
『……良いのか』
「あぁ」
認識さえすればコッチのもんだ。
運命、俺はお前が大嫌いなんだわ。
ちっと捨て身の業になるが。
『了解した。排除対象を取捨選択する。時間の概念、
「何を?」
「"外から"何が起こったか"見る"だけだ」
「は?」
「……もしやユーザー、指輪を?」
「……流石ユーザー。狡賢い」
俺の理想、本質は、"無"だ。
無駄、無為、無理、無碍。
他を排し、最後には己すらも排する無茶苦茶な願い。
そして俺は、あらゆる事物に対する侮辱とも言える究極の
既に幾人かの超越した創作者も発見しているはずだ。これは、誰もが狡いと憤るだろうさ。
『調整完了。最小限の願いで済む』
眼鏡を外し、目を閉じて、左目を手で覆う。
必要な情報以外はシャットアウトだ、視覚のみに焼き付ける。
「環奈が何をしたのか……"時空の外から"見てやるぜ」
__
左目を開いて、事実を見るんだ。
「《
始めに見えたのは、俺達が穴に引きずり込まれる光景。
そうだ、ここから事件が始まった。
ルルイエに辿り着いた俺達。
同じようにルルイエへ降り立った足立姉妹。
捜索の末に姉妹を見つけ出し、クトゥルフから逃げ……逃げ、おい何で戦ってんだ俺達。ウルネラにアルバロ、お前らを出した覚えはねぇぞ。しかもチャッカリクトゥルフ殺してやがるし。普通に勝てるんかいな。
あぁでもほら放っとくから足立姉妹が死にやがった! そりゃ泣くよな俺! 足立姉妹気に入ってるもん死んだら泣くよなそりゃ! 何で放っといたよ!?
……待て、環奈の指輪が光ったぞ。
そうか、俺の悲しむ姿を見兼ねて願ったのか。こんの馬鹿。
……また穴に引きずり込まれる場面から。
足立姉妹に会って、今度はちゃんと逃げたか。
しかし、狂った角度へは隠れず。
何だこれは。
何故不可解な行動ばかり……どうした俺。
……んっ!?
おい、何で環奈置いてクトゥルフと戦うんだ馬鹿か俺!?
ほら言わんこっちゃねぇ死んだし!?
で、はい環奈がそれ目撃して。
あぁあぁめちゃくちゃ泣いてるし、本当何してるん。
あ、また指輪が光った。
ここからは、俺達の辿った過去がそのまま見えた。
うん。
まぁ。
環奈の本質と言うか理想は良く分かった。
「……今回が三回目……ようやっとスタートに立ったって事か」
「……そうだよユーザー。ここからは、"君"が思考するんだ」
「我等は、"君"を待っていた……第一突破判定、成功。ここからは我等も手伝う」
頼もしい限りで。
「大変結構ッ」
「結局何が分かったんだよ」
「今回が三回目のチャレンジだって事が分かった。環奈、今度は一緒にやるんだ」
「はぁ?」
環奈の願いで、時間が巻き戻る、もしくはリセットが働いたんだ。
良くあるだろ、所謂ループもの。環奈の本質はそれに類するものだ。
それが2回作用して、俺の失敗を帳消しにした。
その代償がこれか……情けない話もあったもんだ。
「二度もお前に悲しい思いをさせちまったんだ。もうそんな事にはさせん」
「……何か知らんが……分かった」
「……」
「環奈様、お顔が紅い」
「ッ!!」
「からかってやるな。とにかく、お前らはここで大人しくしてろ。俺4人と環奈でクトゥルフを殺す」
「そう簡単に殺させてたまるもんですか!」
「我が神を殺すなど」
足立姉妹、お前ら何がしたいんだ本当に。
構えても無駄な事ぐらい分かってるだろ。
「……半ば遊びのつもりだった信仰が、目の前にあるんだ。クトゥルフ様をこの目で見た」
「ご主人……いいえ、神条 神鵺。クトゥルフ様を殺すつもりなら」
「「まずは、私達を殺してから」」
まぁったくコイツらは。
「無視したら自殺のつもりか。次の試練はお前らって事だな」
「私は躊躇い無く殺す……が、神鵺。どうするんだ」
「……………………ちょい待って」
「「「「「ズコッ」」」」」
一旦整理しよう。
ノリで進むのは良くない。
試練とかは置いといて、俺達の最終目標は、全員無事にこの世界から脱出する事だ。クトゥルフを殺す事じゃない。
しかし脱出するためには、この無で覆われた世界から如何にかこうにか外へ力を及ぼさなければならない。
「もう一回解放……いやダメだ、アレぐらいまで限定しないとすぐに……」
「また何か考え始めた」
「……ご主人なら、きっと……」
「……ねぇどうしてもクトゥルフ殺しちゃダメ?」
「「絶対ダメ!!!!!!」」
「ですよね」
ぬぅーぬぬぬ参った。
「つか普通に考えて帰りたいだろお前らも考えろよ」
「そう簡単に世界間移動出来たら苦労しないよッ!!」
「私達が来る時の方法は、どうか聞かずに」
「そうだお前らどうやって来たんだ」
「「…………」」
「…………」
どぉ~やって来たのかなぁ~?
「ご主人待って! 両手ウネウネさせながら近寄らないで!」
「犯罪、犯罪ですご主人。重罪ですよ」
「異世界に法も何も無い事を知らないのか貴様等は」
観念してタネを教えろこの馬鹿どm
「……」
「敵襲だね」
「……のんびりし過ぎた」
ヤァッベマジだ。
隔離世を孤立させない為に固定していたゲートから、異形の者共がワラワラと出て来やがった。
魚の様な頭部、コロンとした身体、鱗で覆われた人型の異形。
深い海の底にてクトゥルフを信奉する種族、
あ、ダメだ飛び掛かって来た。
取り合えず適当に《
ムカついたのでもう勝手にやろう。
そうしよう。
「環奈、その二人殺さない程度に仕置きして良いよ」
「よっしゃ!」
「ひっ!?」
「しょ、しょく……!? やっ!?」
おぉ、影を触手みたいに動かしての拘束か。
良い光景じゃねぇか脳内フォルダ保存余裕でした有り難う御座います。
「んぐぅ!? むっ、んっ、~~ッ!!」
「んぅ、ふっ、ふふっ、んぅふふふっ……!!」
舌を噛み切られない様に口も影で塞いで、こちょばしと来た。地味にキツいな。
とりま苦しんでろ馬鹿共め。
そんじゃコッチは何時もの大暴れと行こうか。
「来い
「キャッホウ!
「闇で閉ざす……
『
最早、足立姉妹を抑えながら戦う以外の方法は無くなった。
って言うかこれが一番手っ取り早かった。
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