第62話 海底様式夢幻世界=ルルイエ

「……何だここ。目がおかしくなりそうな世界だな」

「……これは……」


 薄暗い遺跡の様な場所。


 足場は一見平らの様に見えて、三歩先には隙間が空いている。後ろを見れば階段のような段差が見えるが、ふと足元を見やると、段の間にも隙間が空き、暗い底が見えている。幾何学的に狂った角度と言う表現が似合っているこの場所。ここに来た事は無いが、俺はどの様な所か知っている。


「南緯47度9分、西経126度43分……」

「ん?」

「太平洋に眠る旧支配者の根城……ルルイエ」

「ルルイエ?」


 かつて、宇宙的恐怖を描いた狂える小説家達がいた。

 彼等は、「この広大な宇宙の真実の前には、人間など塵芥にも等しいのだ」と言う事実を伝える為にあらゆる狂気を通じて恐怖を綴った。


 その一つが、この遺跡。


 我が神、死せるC'.u∔|.∔が眠る地。ルルイエ。


「本来は創作上の場所なんだが、バトリスと同じ様なものか」

「物語の世界ってこ……と……」


 おっと、まだ肩掴んだままだった。

 おいおい振り払うなよ冷たいな。

 顔紅くしちゃってぇこのこの。


「とにかくだッ。向こうとの時間差は」

「ちょーいと待ってな」

『既に調査済みだ』

「流石」

『言ってしまうと、この世界は隔絶されている』

「冗談だと言え嘘でもそう言え」

『文字通りの意味だ。世界外の情報取得不可、無で覆われている。しかし時間差の測定は出来る、およそ1.5倍だ』


 知らぬ間に専用の隔離世でも用意してたのかコイツ。

 マジ有能。


『現状、こちらからの脱出及び元の世界からの特定も不可能だ。先程の穴の様なものでもあれば、また別の世界へ移る事は可能であるが……』

「何処に行くかは分からない、と」

『不確定要素が大き過ぎる』

「穴を開ける狩猟者プレデターなんてのもいそうだが、その線は……」

『無い』

「だよなぁ。わざわざ異世界に放り込むなんて事しても意味ねぇし」

『私達の他に、支配個体が1つ。不明な個体が2つだ。情報操作の類は掛かっていないが、何故か個体値を取得出来ない。辛うじて居ると言う事実のみが分かっている状態だ。位置の把握までは出来ない』

「次元でもズラしてんのか……」

煉獄プルガトリオか。なるほど、それは在り得る』

「…………」


 おっと環奈の事を置いてけぼりにしてた。

 ポカンとしてらっしゃる。


「とりま、分け分からん奴が二人いる。ソイツらを探しに行くぞ」

「……お、おう。とりあえず探してボコれば良いんだな」

『作戦目標は、世界からの脱出。途中に必要とされる任務は、不明個体の捜索。仮名称として、U1、U2と呼称しよう。尚、魂奪取ソウルダッシュの任務外に位置する為、基本的に支配個体は相手取らないとする。なるべく避けて通ろう』

「OK。ブリーフィング終了」

装着アーマード。作戦開始』

「やっぞゴラァア!!!!!!」

「オンゴラァア!!!!!」


 キシャァア!!!


 * * *



 神鵺達が捜索を開始した頃。

 足立姉妹も、この世界へ降り立っていた。


「試練って言ってたけど、具体的に何を……?」

「刺客を送る!」

「私達が刺客なんじゃ……」

「第一、私達がご主人に勝てるわけ無いし」

「……それもそうだね……じゃぁ、やっぱり」

「この世界は、そう言う事なんでしょ」

「空想が……現実に……」


 二人は確かな笑みを浮かべていた。

 自らの信仰する虚構が、今、目の前に真実として佇んでいたのだから。


 蛸のような頭部、ずんぐりと肥った胴体、蝙蝠の様な羽。座った体勢で、静かに夢を見る巨大な者。海の底で眠る神、偉大なる来訪者にして司祭、クトゥルフである。


「我が神が認めるなら、ご主人も神になり得るって事で良いよね」

「でも、神になるって何だろう……信仰を得る存在?」

「強大な存在……だったら既にそうだよね」

「何か、神である証拠でもいるのかな……」


 うーんと唸る足立姉妹。

 しかし、彼女達は直ぐに切り替える。


「まぁとりあえず祈祷でもするか!」

「……そうだね」

「けどどうする?」

「……それっぽい儀式でも」 スチャッ

「するかー」 スチャッ


 そして二人は、持ち寄ったナイフで互いの腕に傷を付け、その血を混ぜ合わせて、床に印を描き始めた。


 ここは夢幻世界。

 想像が形となる創造の世界。


 その事実に、二人は未だ気付いていない。

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