第5話 レイドイベント:滅亡戦争


 運命と言うモノを、君は信じるか。


 はい、四度目のこんにちは。

 神条カミジョウ 神鵺シンヤで御座います。


 前回勇者一行をブッ倒して、魔王もサラリと始末した俺は5人分の魂を貰っちゃって(おまけに下僕も貰っちゃって)ほっかほかで帰ろうとしていました。


 だけど勇者一行の中に紛れ込んでいたあの無駄にカッコイイ眼鏡さんのおかげで、俺の狩猟はまだ終わる事を許されなくなってしまっていた。


 ざっくりとしたあらすじ終わり、本編スタート。



 === 竜神の怒り ===


 ――― 赦さん ―――


 一匹の竜は、その感情に意識を埋め尽くされていた。


 親愛なる者、ヒューイを騙したあの悪魔を。


『赦さん……』


 親愛なる者、ヒューイを玩具の様に振り回し殺したあの略奪者を。


 絶対に____


『赦さん……赦さんぞ……!!』


 出会ったのは彼が幼少の頃だった。真に世界を楽しむ事の出来る人間の存在に喜びを感じさせてくれた彼は、もういない。


 奴は命を奪うだけでは飽き足らず、その魂までも喰らってしまったのだ。


『略奪者よ! 私はお前を赦さんぞ!!』



 怒りをそのまま力に変え、口元に集積して放つ。


 レーザーの様に細い光線が、あの塔を捉えた。




=== と、思うじゃん? ===



「ッ! 認識攪乱ミスディレクション!!!」

『えっ、何です!?』



 咄嗟の事で焦った。


 認識攪乱ミスディレクション。望む対象への認識を攪乱し、主に攻撃の命中率を下げる。魔王との戦闘中に悪魔が支援に使っていた情報操作マニピュレイト応用術だ。


 思わずこれを塔相手に使ったら、世界の方が勘違いしやがった。

 塔がグニャリと曲がって光線を避けちまったよ。


 遠くで爆音が轟き、衝撃が塔を揺らす。


「おぉいおい……何だ今の……ほとんど勘で行動したけど悪魔お前一体何したんだ」

『わ、私はただあの薬師ヒーラーを貴方の元へ……あっ』

「……」

『……それ……多分、ドラゴンです』



 俺、死んだな。



『略奪者よ! その魂焼き滅ぼしてくれる!!』


 壁ブッ壊して来ちゃったよ。

 ドラゴン塔ブッ壊しちゃったよ。

 お前デケェよ。身長10m超えてんじゃねぇかよ。


 否応無く空中戦へと発展していった。

 その間何と0秒。


「何だお前、あのヒーラーと仲良かったのか?」

『嗚呼そうだ! そうだとも! お前が私の友の魂を喰らった! お前を焼き消す理由などそれで十分だ!』



 殺意1000%の極熱ブレスを避けながら、高速度でその場を離脱する。



「傍迷惑」

『一番迷惑なの私達ですけどね……』

「おい悪魔、作戦会議だ」

『あっ、はい。接続……可能、いつでも良いです』

「うしっ」



――《思考世界メタサイド展開ログイン》――



 時の概念が無く、更に意識の共有まで出来る思考世界へ逃げ込んだ。

 ここにいる間、両世界は時が止まったように動かなくなる。物理干渉が出来ないものの、この世界に逃げ込んでゆっくり対策を練れるのはこちらにとって非常に有利な事だ。


 俺の大好きなゲーム、テーブルトーク・ロールプレイング・ゲームをリアルにやってるようでスッゲー楽しい。


「つうわけでだ」

『はい』

『何で私まで……』


 しれっとレミィまでおる。

 無事に向こうの世界へ辿り着いたようだ。

 ちゃんと靴脱いで玄関置いとけよ。日本だからな。


『協力しないとまた此方の世界へ放り込みますよ』

『協力します』

「よろしい」



 と言うわけでぺちゃくちゃぎゃぁあーすわっほい。



『貴方本当酷い事考えますね』

『人間じゃない……』

「ドラゴン狩るだけじゃ飽き足んねぇからな」

『欲深い事、黒金剛石ブラックダイアモンドに選ばれるだけはありますね』

「それってどんだけ凄いん?」

全ての悪を敷く者レベル・アンラマユ

「俺全ての悪アンラマユだったわ」

『(もうこの二人滅んで欲しい)』



 さてと、作戦もまとまったので実行に移そう。



――《思考世界メタサイド解除ログアウト》――



「あばよ!」


 まずは全力で逃げる。


 5分近く時間が稼げればそれで良い。

 とりあえず世界中飛び回って手頃な秘境に逃げ込む。

 何か聖獣っぽい守護者いたけどソイツは適当に殺して魂奪ってやった。


「準備は良いな悪魔」

『ええ、他の方にも了解を取りました』

「よーしそれじゃぁ、”イベント開催宣言”といきますか」



 そう、俺たち、と言うか俺の考えた作戦は。




 レイド戦だ。




=== レイドイベント:滅亡戦争 ===



「全世界のクソみたいな理由で働いている狩猟者プレデターの皆様どぉぉおおおおもごきげんよう!!!!」


 俺のいた地球上全ての狩猟者プレデターへ、自動翻訳しながらの同時通信を送る。


 単純に考えて、俺一人の手でドラゴンを倒すなんて無理だ。

 だったら、他の狩猟者プレデターも連れて来ちまえば良い。

 そんでどうせ他の狩猟者プレデターを呼ぶんだったら、もうドラゴン相手じゃなくて世界を相手にすると言うお触れの方が注目されやすい。


「この魂奪取ソウルダッシュシステムが始まって早1か月が過ぎようとしている所。そこで俺はイベントを考え付いた! 耳かっぽじってよぉおおおく聞け!!」


 勿論、それだけが目的では無い。

 まぁその点に関しては後々分かるだろうよ。


「今俺のいる世界は、比較的ランクの低い世界だそうだ。だがそれでも一狩猟者の俺一人じゃどうにも出来ない相手がある。そうそれは世界だ! 夢見た事は無いか。かつて神々が殺し合いしたように。天使達が地上を焼き滅ぼしたように。神が偉大なる水で地球を洗濯したように。自分達の手で世界を滅ぼしてやりたいと! 思った事はあるかぁ!!!」



「「「「「おぉぉおおおおおおおおおおお!!!」」」」」



 威勢の良い事で。



「結構! そのチャンスを今ここに用意した! ルゥールは簡単!!! より多く、より高位の魂を狩れ!! 数とランクのレートに応じて、悪魔達から報酬が支払われる。タイムリミットは、世界が滅ぶ時!! これは競争だ!!! お前達は世界を血で濡らしながら互いに競い合うんだ!!! 奪え! 犯せ!! 火を落とせ!!! 法も何も関係無い。惨めに戦ってせいぜい世界をめちゃくちゃに汚すが良い!!!! 以上だ! それでは武器は手に持ったか? ポーションの用意は? 毒消しは忘れてないよな? 命が無くなっても恨みっこ無しって契約書に書いたか?」



「結構。それでは10秒後にイベント開始だ!! カウントダウゥウウウウン!!!」



5秒前!!


4!

3!

2!

1! さぁ今こそ!!



 世界を!!!




「ブチ壊せぇぇえええええええええええええええええええ!!!!!!!!」




 地獄の始まりだ。


 世界中に開かれたゲートから、次々と狩猟者が飛び出してきた。


 俺を追っていた炎神龍、洞窟奥に潜む雷の龍、海を支配する海龍、空の王と呼ばれる鳥、等々の最高位種は勿論。各大陸の国を治める王様達、麗しいお姫様、高潔な王子様、辺鄙な村で生き残っていた元魔王候補、人、人、人、人、人、人、人、人、人の死。とにかく死。



 虐殺だ。

 獣達による大虐殺だ。



 抵抗を許さず、理不尽に世界を蹂躙し、命を奪い、尊厳を踏み躙り、希望を排し絶望へ堕とす。


 瞬く間に闇で包まれた世界は、遂に全域魔境を経て荒地と変わり果てた。


 力の無い人間は大半が発狂し、互いに犯し合い、貪り、殺し合う。

 中には狩猟者を崇める奴まで現れたが、良いように弄ばれて魂を奪われるだけだ。


 この世界の天使達まで出動して必死に抵抗したが、金の為にわざわざ異世界へ行って殺しを働く様な奴らの狂気に耐えれる訳も無く敗退していく。そしてその最中に猛攻を許し、白い衣を汚されては首を断たれて血の華を咲かす。


 勿論狩猟者プレデターの中にも死傷者は出るが、誰もそんなの気にしない。せいぜい魂を掠めとる程度。

 気にする奴がいるとすれば、そんなのは死体愛好家ネクロフィリアの変態だけだ。



 意外と結構いた。(ウソダロ同志よ)←



 そんなこんなで世界は順調に死の道へ追いやられていった。

 俺も戦火に巻き込まれてしまうが、まぁ真の目的があるのでなるべく安全を確保して必要な魂を狩っておく程度に留める。


 そして遂に、俺の目的である”奴”が現れた。



『対象、来ます! 変換作業は完了済み。狩猟者プレデター、即席の隔離世を用意したのでそこへ!』

「あいよ! んじゃ後頼んだぜバァカ共!」


 ”奴”は"今の俺"じゃぁ本当にどうしようもない相手らしいからな。

 逃げるのが最善手だ。


 と、想ってたら何か来た。

 誰だアイツ。


「おぉっと待ってもらおうか新人君! 君が何を考えてるかはよぉく分かるのだぞ!?」


 可憐な顔で黒ズボンにシャツの少女だった。ワイルドガール。

 どうする、殺して玩具にでもするか。


『アレ、カンナさん?』


 知り合いか悪魔。


『ほんの5日前狩猟者になったばかりのエースですよ。彼女、一昨日別の世界で小神マイナーゴッドの一柱を殺してるんです。単純な戦いだと貴方より強いですよ?』


 チッ、運が良かったな俺。

 うっかり手を出したらコッチが殺されてたわけだ。危ない危ない。


 さて、二人でゲートを潜って隔離世へ避難したところで、自己紹介でもしとくか。



「あー、っとー、シンヤって言います。黒金剛石ブラックダイアモンド狩猟者プレデターっス」

「ぶ、黒金剛石ブラックダイアモンド!? 逢ったら80%で死ぬかも知れないって噂の!?」


 これってソッチ方面でも恐れられる代物なのか。


「必要以上に殺しはしないんで安心して良いっス。仮にも先輩みたいっスしアンタ」

「狩猟者とは思えない礼儀正しさだなぁ……」


 ここで変に角立てて殺されるのは嫌なだけっス。


「それで、”神”を降ろそうとしていたんだろう?」


 おっしゃる通りで。



 そう、所謂そういうタイプの小説を嗜む程度に読んでいた俺は、異世界と言うワードで浮かんだ言葉を頼りにしたのだ。


 ”創造神”。世界を創りたもうた偉大なる存在。

 その存在が、世界を蹂躙されたらどれだけ悲しみ、そして激昂げっこうするだろうか。


 折角作ったモノを他人にノリで馬鹿にされて壊されたら、誰だって怒り狂う。俺だって怒り狂う。そうやって神を降臨させ、めちゃくちゃになった世界を掃除させる事でたぁ~っぷり俺の獲物を横取りしくさってくれた狩猟者をついでに一掃、そんでソイツらの奪ってった魂ごと俺が全部奪う。


 それが俺の考えた作戦。”総絶奪取クライマックス・ダッシュ”だ。



「世界を蹂躙して神を召喚しようとか、お前とんでもねぇ悪者だなぁ」

「へへっ、そりゃ俺、黒金剛石ブラックダイアモンドに選ばれてますから。そちらこそ人が悪い。折角他の狩猟者プレデターを蹴落として、代わりに集めさせた魂を一気に奪おうと思ってたのに、一人着いて来ちまったっスからね」

「と言うわけでお互い様だ。3割で良い、魂を分けるって事で手を打たないか。神も殺す気だろ。そんな目してる」

「……OK、悪者同士協力しましょう。ぬははっ」

狩猟者プレデターって悪いヤツだなぁー……神のお掃除、終了予測時刻まであと5秒、4、3、2、1……終了を確認しました。はい、ゲート開きますよー』



「ホイホイ開かれるゲート



=== 神様だって殺しちゃいます ===



 結論から言うと、創造神には俺がトドメを刺した。


 天宮アマミヤ 環奈カンナと言う金緑変石の指輪アレキサンドライト・リング狩猟者プレデターは不定形の水(?)、影(?)、何かそんな奴を自由に操って神と対抗していた。


 彼女は戦闘狂らしく、調子に乗っていたので俺が横から掠め取ったのである。



「はい魂奪取ソウルダッシュ! 俺のもーん!」

「あぁあああああちくしょう!!?」

「神殺す準備で俺7、先輩3の7:3で奪取したし良いじゃないっスか」

「ぬぅ……」


 悔しそうに顔をしかめる環奈。こうして見ると可愛いな。


 しかし、その可憐さからは想像もつかない野生を秘めている。いや、これは、最早狂気か。なるほど狩猟者プレデター利己主義エゴイストのロクデナシばかりだと言われるのも頷ける。ヤツの強さも気の触れようからだろう。


「……今ここでお前を殺せば魂を奪えるが、私がそれをしないのは何故か分かるか」

「ええ勿論。俺の成長を期待してるんでしょう。金よりも戦いに飢えてる印象だ。バトルマニアの天宮 環奈先輩?」

「……神の魂はちょっと気を付けろ。生命力って言うか精神力? めっちゃ凄いから」

「うん?」


『タダで奪われはせんよ』


「ぬぉっ!? 何だコイツ!?」



 神め、指輪から出て来やがって、しかもコイツ……俺の魂まで、引っ張ってる!?

 クッソ、こんなんで人形にされてたまるか!



「一度捕まったんだから大人しくしてろクソガミがぁ……!!」

「そーれ頑張れ! 頑張れ!」

『一人間が神に勝てると思わない事だ。未だ魂は残っている。少しでも信仰心があれば、我は強く存在していられるのだよ』

「……ほう?」

『……ん?』

「なしたん?」


 つまりコイツが神じゃないって世界に思わせれば良いわけだ。


『あっ』

『あぁその手が』


 はい情報操作マニピュレイト! ”この世界に神などいない”!!!


 《失われし主ロストゴッド》!!


『あぁぁぁあああああああああああああああああ!!!?!?!?!?』


 こうなりゃお前はただの人間同然だろうよホラ!!


『知恵ばかり回る人間め! その賢さが自らを破滅へ導く事だろう! 神の慈愛は既にお前を見放した! 覚えておれぇぇええええええええ!!!!!!』

魂奪取ソウルダァアアッシュ!! 神の魂ディバイン!! ゲットだぜぇ!!!」



 剣と魔法の世界、蹂躙制覇レイド・コンプリート!!



「フッフゥー!! 何だ、何だ今の!? マニピュレイト!? お前神をこの世界から迫害しやがったのか! やることえげつねぇえええええッハハハハハハ!! ひでぇ!! ひっでぇよお前!! 最ッ低だ!!!」

「お褒めに預かり光栄だ」

「ハァ~……ハァーマジかぁー。世の中こんな酷いヤツがいるなんて、本当面白いな」

「そんじゃ、イベント終了宣言でもすっか」



 既に何人消えたかも分からない狩猟者プレデター各位、そして悪魔へ。

 ここにイベント終了の旨をお伝えしまーす。



「ゴミカスと呼ばれても仕方ない肉食系の諸君。世界は滅亡した。これにて、レイドイベント:滅亡戦争の終了を宣言する!! お疲れぇええええええっす!!! ごちそうさましたぁ!!!」



 中指立てて俺が頂点に上がると宣戦布告完了。


 通信終了!!



「……黒金剛石ブラックダイアモンド……お前”も”頂点を目指すんだな。ククッ、こりゃぁとんでもない”ライバル”が現れちまったぜ」





=== 愛しの我が自室 ===



 そんなわけで無事帰還。

 環奈とは連絡先を交換し、後でコンタクトを結んでおいた。


 情報操作マニピュレイトによる通信も出来るには出来るが、普段の生活時は文明の利器に触れていたい。俺だって現代っ子なのだ。


「いやぁ~凄い活躍と言うか暴挙の数々でしたね。半分私のせいですが」

「……人間じゃない……です……」

「フンッ、それで? 報酬はいくらなんだ?」


 当初の目的は魔王だから、多分ソイツの分だけしか払わされないんだろうが……。


「魔王は我々の規定によるランクで言うとD、10万円ですね。ほぼ命の危険無く狩れる対象なので」


 マジかよ。


「そして更に、貴方が奪取してきた魂のレートを合算するとー」


 ん、ん?


「魂の総数、計63億137万5849。Eランク以下のものを排して計算した結果、ざっと80兆円ちょっとですね」

   チーン




 借金どころかポンと小国建てれる金額じゃねぇか。




「では、指輪をこちらへ」


 指輪を合わせると、ホログラムめいたウィンドウが表示されて金額が表示された。

 約80兆28億なんぼ。なんじゃこりゃ。


「一気に大金持ちだぜ。イェイ」

「必要な時に指輪を通して卸せますのでー」



 その後の行動は早かった。

 母へ借金分の金を振り込み、これでチャラ。

 残った金はとりあえず仕舞っておく事にしようと思ったが、悪魔から提案が。


「どうします? もっと派手に戦いたいと言うなら、私達悪魔の経営してる会社で運営してるショップがあるのですが。武器や防具、アイテム諸々ゲームのようなものを買えますよ?」





 ……おいおい何だよそのふざけた提案。


 この俺が、そんな提案に、乗るとでも、思ってるのか?


「乗るでしょう? 貴方は黒金剛石ブラックダイアモンド狩猟者プレデター……お金、使いたいんでしょう?」


 良く分かってるじゃねぇか。


 まだまだ終わらねぇよ。


 こんな楽しそうな事、逃すわきゃぁ無いだろう?




  ―――――――データ―――――――


氏名:神条 神鵺 性別:男 年齢:18歳

職業:専門学生

クラス:狩猟者プレデター

契約者:悪魔ネームレスデヴィル

クリスタル:黒金剛石ブラックダイアモンド

獲得魂:6,301,375,84963億137万5849

レベル:10

【ステータス】

筋力:A 敏捷:A+ 生命力:B

感覚:C+2 器用:C+2 知力:B+3

精神:C+2 幸運:B 容姿:C

【能力】

《思考世界》

《放射》

《情報操作》

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