灰色の空
Reche
第1話
緊張とやる気で心がいっぱいになっていることで、なかなか寝付けずにニトリで買った布団の中で翌日のことを考えていた。
日本のとある場所、桜の蕾が見え隠れする季節。
ここに一人の男がいた、名は新道照久。
彼はこれからの新社会人としての生活に不安と期待で胸を膨らませていた。
そんなことを考えていたなと冷たくなってきた夜風を浴びながら考えていた。
入社してから半年ぐらいが経っていた。仕事は個人向けの営業。ずっと辞めたいと頭の中では考えている。
仕事が中心の生活。朝から晩までの客回り、遅い時はてっぺんを越えることもしばしばあったし、休日も仕事なんてことも当たり前という風潮に僕も身を任せていた。
就職活動は厳しい時代だった。そんなことは分かりきっていたが、少し舐めていた。どこかしら決まるだろうと高を括っていたんだと思う。結局卒業間近になんとか1つだけ決まったが、専攻していた分野でもないし、僕のやりたいことでもなかった。
正直、ここから逃げ出して実家に戻りたいと思ったことはあった。こんな状況でも続けていけたのも周りの人たちの支えと社会人をドロップアウトして周囲に落ちたと思われたくないというちっぽけなプライドだった。
ネガティブな部分が気づかない内に思考の大半を占めながら毎日を送っていた。
そんな折、一本の電話がかかってきた。
「照久、元気してる?」
地元の友人からだ。
帰宅途中だったのもあり、曖昧な返事をしていると電話口から楽しそうな声が聞こえる。おそらくどこかの居酒屋からなのだろう。
話もそこそこで切ってしまった。
あとでフォローのメールをしておこうと考えつつも、心底寂しさを感じてしまった。
なんとか地元に戻りたいと惰性な生活を送っていた僕に方向性が見えてきた。
そこからの行動は早かった。人事部に現状の仕事環境の報告をし、ここではやっていけないから地元に戻して欲しいと懇願した。
ここでも僕は甘かった。学生時代の失敗を活かせていなかった。会社からの返答は様子を見るという曖昧なものでひどくがっかりした。
強引にでもアクションを起こさないといけないと悟った。
この地方は暖かいみたいだが、冬にもなるとあまりそんな実感もなかった。むしろ風が強いことで寒さが際立っているようだった。
僕の作戦を実行に移した。
精神がやられたことにして、休職に入った。
ここからは完全に自分の独壇場のように感じた。思い通りにことが進み、3月には異動辞令で地元に戻ることが決まった。
社会なんて余裕じゃんかと勘違いしていた。
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