#6 当選確率は知名度に比例する

 僕にとっては勝手知ったる、かつて居た現実世界で僕の取るべき戦術は、ここに立つまで迄幾度と無く行ってきた手法。


 手を変え品を変えの騙し騙し的手段。代わり映えしない、腐り切って手垢の付いたお決まりテンプレート。


 それが意味するのは熱も魂も篭っていない空虚で空っぽな演説。能無しの僕に採択できるのはこれだけだ。


 しかも、今度の相手は人間世界における重役だ。

 空っぽの頭に夢を詰め込んだ異世界人とは訳が違うし、難易度が違う。

 今迄の人生の中で何度失敗し、挫折を味わったか…最早今となっては懐かしく新鮮な感覚だ。


 優秀な兵士諸君と人間離れしたスペックを持つ嫁達のお陰で恙無く、彼との会談に漕ぎ着けることが出来た。彼女達の存在、その戦力こそが僕の持つ最大の反則チートと言えるのかもしれない。


 日本国第……第百…? え、三桁行ってる? 行ってないよな。

 まあ何代目だかよく知らないけれど、現状憲法において国のトップである首相と対峙することになった―――って流石に嘘だろ? マジで? いやいやこれは無い。


 だってさあ…首相だぜ? 実質国の最高権力者だろ? こんな簡単に行かないでしょ? 一国の元首が何得体の知れない亜人を引き連れた謎の男とあっさり会ってんの?


 藁にも縋る思いかつ断腸の思いを伴った行動であっても、明らかな愚行であると言わざるを得ない。脳味噌湧いてるわ。

 平和ボケもいい加減―――大概にしとけよ。この非常時において有り得ない選択であり、考え得る限り最悪の悪手だろ!


 平時は良い。平和な情勢なら散々好きなだけボケればいい。

 でも、このアポカリプスな状況でそれって……あ~、え~~~?

 某インディペンデンス大統領の爪の垢を煎じて愛飲すべき判断ミス。


 ここに来て明らかになるのは、まさか過ぎる悲しい現実。

 かつて僕が暮らした国も異世界と同様頭が緩い人間が大半を締めるのだという衝撃の事実。


 僕が無為無策ながらも必死に説き、結果オーライだとしても異世界を住人をも文明開化させた知識の源泉はこの国で得たもののはずなんだけど…いつからこの国はココまで堕ちていたのか。絶望的な腐敗に溢れた国である。


 なんだろうこれ。


 かつて無い虚脱感に襲われ、もういっそ会談とかもうどうでも良いと思えた。

 何の罰ゲーム? どんな因果でこんな阿呆な国の愚かな首相と話さなきゃ駄目なのか?

 そもそも国会議員って国民によって選ばれた、誰にも選ばれない底辺サラリーマンとは縁遠いハイスペック野郎共が務める大任じゃないの?

 ガクッと心労が重みを増したが、ここで投げ出し逃げ出す訳にはいかないんだろうな……



 さくっと結果だけ申し上げるのならば、会談は(僕にとって)恙無くスムーズに終わり、この国の政府は実権を失うことになった。シンジラレナーイ。

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