第7話
数学の授業が終わり、十分間の短い休憩となった。数学教師の指導は、学習に支障がでるほど厳しい。何の意味もなく厳しいのだ。激しく厳しい。
苦痛を伴う授業から解放されたために、教室内にはどこか弛緩した空気が漂っている。ただし、新たな苦痛に備えるための緊張感も存在した。次の英語の授業も、激しく厳しい教師の担当だ。とはいえ、休み時間はまだ始まったばかりなので、緊張感よりも弛緩した空気の方が勝っていた。
和義が何となしに携帯をいじっていると、近くの席に座っていた女子達が噂話をし出した。何でも、復讐サイトに依頼すれば、法が裁けない悪人を裁いてくれるというのだ。そのサイトの請負人は、犯罪被害者の遺族だという。未成年だったため実刑をまのがれた仇の少年に制裁を加えた後、他の未成年犯罪者への報復も請け負うようになったらしい。
和義には知る由もないが、この都市伝説は一馬が怨霊になる怪談から派生したものだった。一馬の怨霊が闇サイトの請負人となって、様々なヴァリエーションを生み出しながら流行していたのだ。
「怨霊が、恨んでいる人間を祟り殺す」等という怪談を、歯牙にもかけない人間は多い。「怨霊なんてものは、科学的合理主義に反する」と考えているのだ。
そんな彼らの中にも、復讐サイトの都市伝説なら信じてしまう者がいる。「絶対に有り得ない」とは言い切れないためだ。
また、信頼している人物に教えてもらったり、不幸な出来事に遭った直後で情緒不安定となっている場合など、幾つかの条件が重なれば信じやすくなる。よく考えてみれば怪しい「友達の友達」が情報の出所にも拘わらず、人々の心の中に都市伝説は生きていた。
女子達がする話は一層胡散臭い方向へ進み、怪談の範疇に属したものとなる。呪いがどうこうと言い出して、狐が復讐を担うようになった。挙げ句の果てには、化け物に殺された人間が怨霊となって、報復する怪談話を始める。
和義は、小馬鹿にしながら耳を傾けていたが、すぐに態度を改めた。今となっては、化け狐に襲われる可能性もあるのだ。
彼は、ふと思う。見える見えないに拘わらず、化け物がこの街に元々存在していたのならば、自分は常に危険な状態にあったのでは、と。
ともあれ、非科学的な存在・現象を全く信じてこなかった人間が、たったの一日でそれら全てを受け入れられる筈もない。例え目の前に、人魂が漂っていてもだ。
化け物を否定してきた自分と、肯定しつつある自分の間で、彼の心は揺れていた。
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