第2話

 一夜明けて、和義は目を覚ました。いつも通りの起床時刻に、いつも通りの自室の光景。視界の範囲内に、非現実的な要素はどこにも無い。

(昨日の出来事は、全部夢だったんじゃ…)

 こう思いながらカーテンを開けてみるが、希望的な考えは直ぐさま打ち砕かれた。二階の窓から見渡した近所近辺に、幾つもの人魂が彷徨っていたからだ。


 彼は、異界と化した街並みを眺めながら、(化け物達が見えなくなるか、撃退方法が分かるまで外出を控えよう)と心に決めた。


 ところが人魂達は、屋内にも平然と侵入してくる。慌てふためいて、昨夜の内にネットで調べた悪霊退治の方法を試すが、何の効果もあらわれなかった。

 いつもなら家を出る時間が近づいてきて、苦慮する。結局は、狭い家の中で震えているよりも、広くて人の多い校舎内にいた方が安全だと判断した。

 「何か起こったら、電話してくれ」と母親に言い捨てて、彼は玄関の扉を開いた。


 人気のある場所に向かおうとしていた和義は、隣の家から妙な気配を感じ取った。余計なものは見まいと咄嗟に顔を伏せるが、目の端に[子供のようなもの]を捉えてしまう。

 幼児に似たそれが、縁側で車の玩具をいじっていた。

 和義は、気づいていない振りをするものの、周囲を包み込む異様な雰囲気に当てられてしまい、自身の態度から緊張の色を消せなかった。

 不意に、子供が顔を上げた。そしてゆっくりと、和義がいる方向に顔を動かしていく。

(急に俯いたのは、わざとらしかったか)

 背中に強い視線を感じたまま、彼は足早に通り過ぎようとする。

 老夫婦が二人暮らしをしている筈の家は、いつしかお化け屋敷に変貌していた。

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