第46話「小説風・サンタじゃない!サタンだ」
前作の「サンタじゃない!サタンだ」のAA(アスキーアート=顔文字)を抜き、小説っぽくしてみました。
◇◇◇
動かぬ時計が、深夜零時を指した頃、なにやら物音が聞こえてきた。
ガサゴソ、ガサゴソ……
何かが動いている音がする。その音に……
「あっ!来たんだ~。サンタさ~ん!!」
と、女の子が起き出した。名前を呼ばれた者は、振り向きながらこう言った。
「我輩はサタンだ」
耳まで裂けた口、頭には角があり、目は鋭い眼光を放っていた。しかし、女の子は怖がることなく……
「やった~!サンタだ」
と、大喜びした。あっけに取られたのがサタンの方だ。
「サンタじゃないと言っておろう!サタンだ」
と、言い返すが……
「ねーねープレゼントは?」
と、ねだる女の子に、つい頬が揺るんだ。でも、そこはサタン……
「なんだ?何の施しもなく、見返りを求めるとは!?」
と、また言い返したものの、女の子は聞く耳持たず。
「ねーねーお兄ちゃん!早く起きて~、サンタだよ!好きなプレゼントをもらえるよ」
と、兄を起こしたのだった。その愛らしい様子をみて、クスッと笑いながらサタンは呟いた。
「いや、これでは一方的な搾取だ!」
ククク
と、笑っていると……
「えっ!?本当!やった~サンタさん!僕にプレゼント下さい」
兄がこれまた嬉しそうにやって来た。サタンは冗談で、思いっきり怖い顔をして言った。
「だからサタンだ!魔界より、ここに門が繋がったので来ただけだ」
だが、あっさりと兄のほうは聞き返す。
「門?」
「そこにあるではないか?」
サタンの捻じ曲がった指が差したのは、魔方陣らしき物が描かれた紙だった。それを見た兄は合点がいったようだ。
「ああ!妹の枕元にある奴かあ。これ、『サンタさんへ。プレゼントお願いします』って、妹が書いた手紙だよ」
「なに!魔法陣かと思っていたが」
サタンは驚いていた。確かに上手くは無いが、描かれているのは魔法陣だったからだ。
「まだ3歳だから、上手く字が書けないんだよ。だから字と絵がごちゃ混ぜになって、グルグル描いてあるだけだよ」
それを聴いた瞬間、誰に言うでなく、皮肉っぽくサタンは言った。
「まさか!そんな偶然で魔界に門が作られたとはな」
「ところでサンタさん?早くプレゼントちょうだい!」
「だ・か・ら!サンタではなくサタンだ!!我輩が出来るプレゼントは不幸だけだぞ!!お前らの魂の見返りに世界に不幸をもたらすのが……」
サタンは兄とのやり取りを楽しみながら、サタンの出来る事を伝えた。それは幸福とは反対の事。破壊と暴力について言ったつもりだったが……
「えっ!サンタさんて不幸なの?もしかしてみんなにプレゼント配っちゃったから?ちょっと妹!なんか食べ物!!」
「分かった!お兄ちゃん行って来る」
ちょっと待て!と、サタンは言おうとしたが、それよりも早く、妹は走っていってしまった。
「いや、もともと我輩は、不幸の渦中そのものなんだが」
とりあえず言い訳をするサタン。そこに兄がなにやら持ってきた。
「とりあえずサンタさん、これ飲みなよ!僕が用意したココアだよ」
「ココアか……甘いものは……」
気持ちは嬉しいサタンだったが……
ジーーー
と、見ている兄の視線に気付くと……
「いや、飲もう……どれ」
と、言って一気に飲み干した!
ゴクゴク、プハー!
「どう美味しかった?」
飲み終わると同時に、兄が聞いてきた。それと同時に、サタンに熱い何かがこみ上げてきた。
ジワー !!
「なっ、なんで泣いてるの!?」
サタンは動揺していた。
「まっ、まさか我輩が涙だと!?」
「なんで驚いてるの?」
サタンはありえない状況に困惑していた。
「お兄ちゃん!ケーキ持って来たよ」
「じゃ次、これ食べて!」
サタンはもはや諦めて、妹が持ってきたケーキを黙って食べた。
ムシャムシャ、ジワー!!
またもや、サタンの目に涙が溢れた。
「わっ!お兄ちゃんサンタさんが泣いてる~」
泣いているサンタを気遣って兄が言った。
「美味しさって、誰かと誰かがいるからなんだって!パパが言ってたよ」
その気遣いに、サンタは嬉しくて……
「哲学だな」
と、誉めた。
「違うよ!最新脳科学だよ。楽しさの経験が、脳下垂体に神経接続され、海馬の記憶と繋がり美味しさとなるんだよ」
「……」
ガッカリした。それを見て、笑いながら……
「って、パパが言ってた」
と、兄は言って、冗談!と付け加えた。
「そうかところで、ご両親は?」
「死んだよ。二週間前に」
サタンは本当は知っていた。改めて聞いたのだ。そうこの地区に空爆があり民間人が多数死んだのだ。
「そうか……ここに居るのは、3歳の妹と5歳の」
「あっ!僕は昨日6歳になったよ」
サタンは日付が変わっていたのを忘れていた。
「そうかイブの日に、お前は6歳か……ところで神を信じるか?」
サタンはふと聞いてみた。これはもはや皮肉ではなく中傷だったが、我慢できなかった。
「信じないよ」
「何故だ?」
「パパ言ってたもん、人の作りし神など信じないって。だから僕も信じない」
なんていい子だと思った。本当に普通のどこにでも居る子ども。そして懸命に背伸びをしている。
「そうか」
「でも、野菜の神様とかなら」
なんとも可愛らしい神も居たもんだと、サタンは思った。
「私はチョコレートの神様がいいなあ~。だって甘いの好きだから~」
妹がそういったので、サタンは出してやった。
「そうか、じゃあほれ!」
「チョコだ~やった~!」
妹の嬉しそうな顔に、サタンも嬉しくなった。だから兄には冗談を言った。
「じゃあ、お前には何か野菜を!」
「おいサンタ!そこはチョコだろ!!」
だいぶ関係が砕けて来た。そんな按配(あんばい)をサタンは感じると、本題に入った。
「さて、戯言もここまでにするか……泥のケーキに、泥のココアか。そして……ほれ!お前にもチョコをやろう。そしたら……」
サタンは本質に目をやった。出されたケーキやココアは、子どもたちが作った泥細工だった。
パク!モグモグ
美味しそうにチョコを頬張る兄を見て、サタンは改めて言った。
「食べ終わったら、本来の姿にもどれ!子どもらよ」
シュウウウウウウー
そこには、今まで生き生きとした子どもの姿はなく、やせ衰え衰弱して死んだ子どもたちの姿があった。
「本来の姿に戻ったな、童子(わらし)の躯(むくろ)よ」
コクコク
と、子どもたちがうなずいたように見えた。子どもたちも分かっていたのだ。
この兄妹の最期をサタンは知っていた。親達は空爆で死に、食べ物を求めてまだ小さい子どもたちは、とにかく口に入れていた。
それは腹を割けば分かるだろう。紙や砂、泥を食べ、先に死んだ妹を看取り、兄は最期にココアとケーキを泥で作り妹にやった。
誰に責任があるのだろう?生まれてきたのが、悪かった事なのか?サタンはうねる感情に身をゆだね考えた。
『さて、この者達の魂の帰る場所はどこだろうか?ヴァルハラか?はたまたプルートゥの所へか?いや……』
その時だった。
「済まぬ、遅くなった」
声がした。
「やっと来たか?声だけか?すぐに連絡が来ないから、冥界へと連れて行こうかと思ったぞ」
サタンは皮肉を言った。でも本心では、可愛い子どもたちを連れて行きたくもあった。
「そこは、神でも行けぬ場所だったでな。助かった、礼を言う」
神は丁重に礼を述べた。
「しかし神よ……よくも我輩に、天使の真似事をさせたものよ!お前の生まれた聖地だろうに」
サタンは嘲り笑う表情を浮かべた。
「だからこそ行けぬのだ。いまだに争いの絶えぬ場所だからな」
神は、本当に申し訳ない声を出した。サタンはため息をつくと……
「まあいい。神よ!今から連れて行くから、この者達の魂を受け取れ」
と、言った。
「ああ、その子らを頼む」
神は、懇願する声を出した。
「さあ、いいか子どもらよ。我輩の悪魔の翼が、この世界から連れ出すぞ!!しっかりと我輩の腕につかまっておれよ!」
遠くで空爆の音がする。サタンはその方向をにらむと、腕を振った!その瞬間、サタンの腕から放たれた何かが、遠くへ向かったかと思うと……
空爆の音はしなくなった。子どもたちを怯えさせていたものは無くなった。全ては無に帰ったからだった。
「「サンタさん、ありがと!!」」
「だから!」
力に力で返しただけだ……と、サタンは思った。俺にはそれしか出来ないとも思っていた。寂しそうにしているサタンを感じ取った子どもたちは……
ギュッ!
と、サタンにしがみついた。サタンは絶対に離しはしないと、両腕の子どもたちを抱きしめた。
俺は、全てのものを闇に葬ってやる。
改めて、そう決意するサタン。誰が悪いんだ?なぜ不幸にする?なぜ、傷つけあうんだ?でも、俺にはこれしか出来ない。
こんなキラキラした子どもたちを救うには?
俺には全てを破壊する力がある。だから子どもたちに言った。溢れる熱い何かを飲み込みながら……だから……
「俺は……サンタじゃない!
サタンだ」
それでも目から、何かが溢れてしまった。
おしまい
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