第47話「空までの距離」

 とあるアルピニストはこう言った。


「人生は山の連なり」


 であると。


◇◇◇


 僕のママは空の上にいる。


「雲の上から見てるかな?」


「そうだね、見てるかもね」


 パパは、そう僕に言った。


 家の庭。いつもママが洗濯物を干していた場所。僕は……


『ここならいいかな?』


 と、思って土を盛り始めた。毎日毎日。少しずつ。土の山は大きくなった。


「何を作ってんだい?」


 パパが聞いてきた。僕が答えに詰まっていると……


「もしかして……お墓?」


 と、パパが聞いてきた。僕は首を振った。パパは困ったような泣き出しそうな顔をしていた。


 お母さんは、空の上にいる。


「先生、雲まで何メートル?」


 小学校の担任の先生は、一番近い雲は300メートルぐらいだと教えてくれた。


 僕は毎日、土を盛る。土を盛っては、踏み固めた。やってみると思ったより、土の山は大きくならなかった。


『一番近い雲で300メートル。1日10センチで……何日かかるかな?』


 お母さんは、空の上にいる。僕は会いに行くために毎日、土を盛っていた。でも、なかなか土山は大きくならなかった。


「なあ、ママに会ったら何を話す?」


 ある日、パパが尋ねてきた。


「考えてない」


 パパは分かったようだった。僕が土を盛る理由を 。


 次の日。パパは僕に地図を見せた。


「この山の高さは356メートルだってさ」


「じゃあ……」


「会いに行ってみようか!」


 次の日曜日。僕はパパと山登りに行った。フウフウ言いながら登った山は。遠くの方まで良く見えた。




   ママ来たよ


   でも




「ママいないね」


 と、僕はつぶやいた。


「そうだね」


 パパが言った。


 それから親父とは良く山登りに行くようになった。谷川岳、日本アルプス、そして富士山。気が付くと……ママ探しの旅は終わっていて。親父との会話を楽しんでいる僕がいた。


「じゃあ行ってくるよ」


「ああ、気をつけてな」


 僕は世界の山を見て来ようと思った。そしてそれは、ただ山を登るという事だけではなく……








 広い広い世界の、人々という名の山々と出会うために。


おしまい



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