第43話「お父さん、空から見てるから」

 僕は、いつも空を見つめている。それはあの時からやっている事だ。


◇◇◇


「小学生になったから、パパからお父さんに呼び方を変えよう!」


 と、お父さんは僕に言った。


「いたいのいたいの飛んでけ!」


 僕が転んだり、ケガをすると必ず、お父さんはそう言った。すると、あんなに痛かったのが、痛くなくなるから不思議だった。

 

 お父さんは、いつも話を聞いてくれた


「そうだったんだあ!」


 まずは、そう言って聞いてくれ、それから、それが間違っていたら……


「でもね……」


 と、話すから僕はとても納得できた。


 僕が2年生の時にお父さんの病気が分かった。そして、お父さんと居られる時間が余りない事が分かった。病院での生活をやめたお父さん。家に帰って来ると、痛み止めの薬だけにしていた。


「まっ!しょうがないよ」


 と、笑うお父さん。だから僕は、お父さんに言った。


「いたいのいたいの飛んでけ!」


 と。


 すると、お父さんは痛そうに笑いながら……


「楽になったよ!」


 と、言っていた。


◇◇◇


「パパ~!こっち来て」


 ベランダで、夜空を見つめる僕は、寄ってきた娘を抱っこして……


「じゃあ、バイバイして寝ようか?」


 と、言った。


「お空のじぃじ、バイバイ」


 と、3歳の娘は空に向かって、いつものように手を振った。僕も空を見つめていた。それは、お父さんが僕に、最期に言った言葉があるからだった。







『お父さん、空から見てるから』


 の。


おしまい


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