第41話「お婆ちゃんの庭 」

「わあ~!サクランボ」


「甘酸っぱくて美味しいよ。どれ取ってあげようかね」


 子どもの頃、よく過ごした田舎の、お婆ちゃんの庭。広い庭には沢山の実のなる木があって、それを目当てにお婆ちゃんの家に行ったものだ。


 5月、初夏の日差しの中、食べたサクランボ。そして次に食べたのがビワだった。


「その昔、琵琶法師と言ってビワに似た形の楽器を持ってね…」


 なぜか、お婆ちゃんはビワがなると、琵琶法師の話をするものだから、夜におトイレに行くのが怖かった。


 7月8月は、メロンとスイカだった。


「趣味でやってるから、なかなか大きいのは出来ないねえ」


 お婆ちゃんのメロンとスイカは、小ぶりだったが、とっても美味しかった。


 9月はブドウを食べた。ブドウ棚になったブドウとハサミで切った。お婆ちゃんはブドウジュースを作ってくれた。


 10月は果物のデパートだった!柿や梨、りんごが食べられた。果物だけでお腹いっぱいになってしまった。


 11月からは、みかんを食べた。この他、イチゴも食べたなあ。梅の木もあって梅干しにしたり、梅酒をお婆ちゃんは作っていた。


 私が、お婆ちゃんの庭を歩き回っていると声がした。


「よくここで、お婆ちゃんと食べていたね!」


 母の妹、つまり叔母さんが私に言った。そこにはベンチがあって、そこに座って取れたての果物を、お婆ちゃんと食べたのだ。


「いつまでいられるの?」


 叔母が私にきいた。


「明後日、帰ります」


「そうかい、もっといてもいいんだよ」


 この家には、今は誰も住んではいない。私が遊びに来たいと叔母に話した所、鍵を開けてくれたのだ。


 誰も手入れをしなくなった庭は荒れているが、かつての面影があった。そして、毎年のように果物が実っていると叔母は言っていた。


「そうそう、お婆ちゃん。実は果物、嫌いだったんだよ!」


「えっ!?」


 そんなバカな!あんなに美味しそうに食べたいたではないか?


「可愛い孫の為に、この庭の手入れをしていたんだよ」


 そう言う叔母の言葉に、亡き祖母の愛を感じた私は……







 気付かぬうちに涙をこぼしていたのだった。


おしまい




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