第22話「熱帯魚」
高校の帰り道。中学の時の友達に久しぶりに会った。
「うち来るか?」
友達の家に行くと、僕は薄暗い玄関先のそれに目が行った。それは……
水槽だった。
何かが泳いでいた。大きさからいって、メダカか?
「お前、メダカ飼ってんの?」
何となく会話のきっかけに言っただけだった。友達は水槽に手をのばした。
パチッ
という音と共に水槽の照明が点いた。そこには蒼く光るメダカがいた。
「ネオンテトラだよ」
メダカと思ってた魚は様変わりした。確かに、メダカではなかった。光り輝く魚の群れをみて、驚く僕を見た友達は言った……
「ネオンテトラは光を反射して輝くんだよ。綺麗だろ?」
僕は、静かに頷いた。ネオンテトラの、蒼く光る姿にしばらく僕は目を奪われた。そのあと、僕は友達とゲームをして遊んだ。
家に帰ってから僕は、あの心を奪われた熱帯魚の事を思い返していた。ただのメダカかと思っていたのに、あんなに姿が変わって見えるなんて。
僕も、今とは違う何かに変われるかもしれない。僕はネオンテトラに漠然とした憧れをいだいた。
あれからしばらく経った。僕は新しい環境にいた。
ネオンテトラに憧れていたあの日。今の僕は、メダカからネオンテトラになれたであろうか?
「ねえ、メダカ飼ってんの?」
高校で出来た、新しい友達が聞いてきた。僕の飼っている熱帯魚に目が止まったのだ。
変われば変わるものだ。きっかけなんて、本当はたいした事ないのだ。でも、そのきっかけにたどり着くまでは、死ぬほど辛かったりする。
僕は水槽の照明スイッチを入れた。新しい友達の驚いた表情に、以前の自分を見た気がした。光に当たり、蒼く輝く姿。メダカと思っていた魚に目を奪われる友達に僕は言った……
「ネオンテトラだよ」
おしまい
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