SS ヒューマンラブ( *´・ω)/(;д; )
草風水樹(くさかぜみずき)
第1話「すりガラスの向こうに」
「大丈夫だよ。いつかまた会えるよ」
と、息子。
僕は、あの世を信じないが、その言葉に救われる気持ちがしたのだった。
◇◇◇
今から一年前の事だった。僕が風呂に入っている時の事だ。すりガラスの向こうから……
「パパ?」
と、声がした。
「おう!お風呂入ってるぞ」
と、僕は言ってから驚いた!息子の声だったからだ。
ガラッ
と、すりガラスのドアを開けた。だが、そこには誰もいなかった。
そりゃそうだ!息子は誕生日の一週間前に、この世から居なくなったのだから。俺は、疲れて幻聴が聞こえたのだと思い、風呂に入り直した。
「パパ?ドア開けないで聞いてね」
またまた幻聴が聞こえた!僕は、ハッキリと聞こえた声に向かって言った。
「誰だ!?」
すりガラスの向こうに、子どもらしい姿が透けて見えた。
「あのね、神様が誕生日プレゼントだって言ってた」
と、すりガラスの人影が答えた。
それから奇妙な生活が始まった。バスルームの、すりガラスの向こうに現れる息子の姿。それはいつも、お風呂に入る時間になると現れた。
「本当にあなたなの?」
妻も最初は驚いて、すりガラスを開けていたが、すりガラス越しに息子に会える事に馴染んでいった。それからの僕らの毎日は、他愛もない話をして過ごしていった。
「で、その休み時間の時にね……」
すりガラス越しに、息子は楽しそうに、以前、学校であった事を話してくれた。その話しは、僕も妻も知らない話で、僕らはもっと早くに、こんな風に話せば良かったと思った。
一年が経ち、息子の誕生日の日になった。バスルームからの明かりで照らされる脱衣所で、僕らはイスを置き、そこにロウソクを立てたケーキを乗せ火を点けた。
「なんか変だね!」
と、妻。
「なんか変だけど、我が家らしいじゃないか」
と、僕。そして僕らは明かりを消しバスルームへ。すりガラスを閉めると、ぼんやりとロウソクの炎が揺れるのが見え、その側に……息子の姿が現れた。
「ハッピーバースデートゥユー……」
と、一緒にバースデーソングを歌い終わると、息子はロウソクを吹き消した。すると息子は……
「じゃあ僕、行くね」
と、言った。
「行くって?」
「もうバイバイなんだ。神様との約束なんだ」
「ちょっと待って!」
「大丈夫だよ。いつかまた会えるよ」
すりガラスの向こうの、息子の姿が薄く消えかかっていた。僕らは、慌ててバスルームから飛び出した。
でも、どこを探しても、息子の姿はなかった。イスの上には、消えて間もないロウソクのささった、手つかずのケーキだけがあった。
「これは?」
そのケーキのわきに、僕は手紙を見つけた。
その手紙は去年の日付になっていて、そしてこう書かれていた。
『大好きだよ!パパ、ママ。いつもありがとう』
と。
おしまい
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