方舟~新日本神話外伝~

右日本

第1話 因幡の兎

 アリサが異世界に召還されてから数ヵ月過ぎた。

 この生活にも慣れ始め、知ったことは増えた。


「知らないことも増えたんだよね……」


 アリサはため息をつき、呟く。


「どうしたのアリサ」


 アリサの背後から声をかけたのは白うさぎこと、イナバだった。ピクピクとうさぎ耳を動かしている。

 図書の整理中だからか本を抱えている。


 イナバ。

 異世界方舟において、王立図書館司書を務める少年だ。

 王立図書館はただの図書館ではなく、需要な公文書を管理したり、異世界を繋いだりと、重要な機関である……。

 イナバは若手でありながら、異世界を渡る能力を持つ「うさぎ族」であるから、司書に任命されたのだ。


「……私って知らないこと多いなって思っただけよ」


「数ヵ月でこの世界知り尽くしてたら怖いな……僕でよかったら答えられる限りで答えるけど?」


 イナバは席につく。アリサもイナバの向かい側に座った。

 ……この幼女は、足が床に届かないのは気にしたら負けだと思い始めている。


「この図書館って、大昔の本が(魔法で)現存しているのに、何で1000年前で急に途絶えているの?」


「……んー、1000年前に「大事件」があったって聞くけど?」


「「大事件」……?」


「えっとね、随分前にうさぎ族の代表首長……うさぎ族の中でいちばんえらい人に聞いたらそう返されたんだ……亡くなっちゃったけどね」

 

「へぇ……」


「あ、女王陛下なら知ってるんじゃないかな、精霊族だから2000年ぐらい生きてるし」


「ありがとイナバ」


 アリサはそう言うなり椅子から降り(落ち?)図書館を飛び出た。


(……転げたのは見なかったことにしよう)


 イナバはそう思い、仕事を再開した……。





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る