異世界デスゲーム(仮題)

@4694

plorogue『夢』

 夢を見ていた。


 ただ、それだけは分かった。何度となく繰り返し見た夢。自分が夢の中であることは、その繰り返しの中でいつしか分かるようになっていた。


 俺は走っていた。夕暮れを背に、街の通りを駆け抜けた。何故走るのか。どうせ夢の中だ。では、どうして?自分に問い掛けるが、答えは出ない。走るのは止めない。息が揚がり苦しくなる。日が、沈んだ。徐々に暗くなる道を必死に走り抜ける。ネオンが明るく照らす繁華街を抜ける。通行人に何度も当たるが、気にも留めない。怒号があがり、響く悲鳴。それらを全て後ろに置いて、住宅街に飛び込んだ。すっかり暗くなり、漆黒の満ちた細い道路を叫びながら走る。


「クソッ……、間に合え、間に合えよ!」


 ああ、何を無駄な事を。どうせいつも、間に合わない。間に合うはずがない。わかりきっているのに。角を曲がり、街灯のしたを通り抜ける。ついた。俺は、一件の家の前で立ち止まる。


 そのまま門を開け、敷地に入る。玄関に手をかけた。鍵は……、掛かっていなかった。そのまま扉を開けて中に入った。靴も脱がず廊下に上がり込んだ。そのまま突き当たりの階段を目指す。

 

 かすかに、かすかに笑い声が聞こえた。


 俺は息を潜め階段を登った。二階に入り、廊下を歩く。突き当たりの扉の前に着く。ノブに手を掛けるが、しかし躊躇し、離してしまう。再びあの笑い声が聞こえてくる。この扉の中だ。唾を飲み込む。瞳孔が収縮し、呼吸が荒くなる。息が吸い込めず。しゃくりあげたような声を漏らしながら、再び扉に手を掛けた。心臓の音がやけに大きく聞こえる。緊張がピークに達した。堪えられなくなり、一気に開け放つ。




「あ」




 声が、漏れる。


 鉄の臭いが充満した部屋の真ん中には、少女が横たわっていた。周りには何かが池のように溜まっている。その上には黒い影が、覆いかぶさっていた。


「ハッ……、ハハッ……」


 涙がにじんだ。また、間に合わなかった。


 黒い影が、気付く。手に何かを持って、ふりかえる。


 黒い影の表情は。笑顔だった。



 じゅんすいんで、歪んだ、





 満面の笑顔。











 目が覚めた。


 南向きの窓にかかるカーテンの隙間から光が差し込んできて、目にちょうど入るから、眩しい。俺は一人用のベッドから起き上がり、つぶやいた。


「また、か……」


 立ち上がり、さらにひとり言を続ける。


「分かっているはずなのに」


 この世には、覆せない物がある。


「どう足掻いたって、あの時には戻れない。一度失われた物は取り戻せない」


 不可能だから。




「時間を巻き戻す事なんて出来ないのだから」


 




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