第16話 エノク語と錬金術
ジョン・ディーは1527年にロンドンで生まれた生粋のロンドンっ子で、1542年には名門ケンブリッジ大学に入学し、なんと一日睡眠4時間で勉強に明け暮れたそうです(なんと一日18時間勉強したそうですよ!)。
そして19歳にして助手に抜擢され、2年後には博士号を取得して卒業。その才能を高く評価されたジョン・ディーはこれまた名門のオックスフォード大学の教授職に推薦されますが、これを辞退してフランスのランスにあるルーヴァン大学でさらに学業に励む道をえらびました。
その後、ユークリッド幾何学の講義が高く評価され、また教授職への誘いを受けるほどの天才的な数学者としての地位を確かなものにしました。また、航海術の権威としての評価も高いものでした。
まあ、そんな天才的なジョン・ディーでしたが、天才とはなんでこうも......ということに情熱を捧げます。なんと彼が情熱を捧げたのは卸霊術だったのです!
では、前置きが長くなってしまいましたが、ジョン・ディー博士の華麗なる生涯をどうぞ。
●博士謎の言語を発見せり
学者としての名声の高かったジョン・ディー博士は、母国イギリス王宮の占星術師として王室に仕えることとなった。
一定の賃金が入るようになった彼は、いよいよ前々から情熱を捧げたかった霊能の研究に没頭する。
博士は、さまざまな怪しい霊能者と交流を深めたのだが、その中にエドワード・ケリーという人物がいた。
このエドワード・ケリーは、とてもじゃないがまともな人物とは言えず、前科数犯の持ち主で、ペテンの罪で両耳切断の刑を喰らったほどの悪党であった。
しかし、ディー博士はケリーの言いなりになり、こうして珍コンビが結成されたのだ!
その後、彼らはさまざまな魔術の実験に熱中したが、やがて水晶凝視に夢中になっていく。
ケリーが覗き込む水晶球の中に、霊が現れて彼らにいろいろな知識を授けるといった魔術である......(あやしい......ケリーがペテンの罪で捕まったほどだから、ますます信用できない......)。
この球の中に現れる霊は主に天使だったが、天使の伝えるメッセージの中に一連の奇妙な言葉があった。
この言葉こそ後世にジョン・ディー博士の名を知らしめた「エノク語」だったのだ!
●エノク語は発見したけど
水晶球にいる天使は、エドワード・ケリーにエノク語でいろいろな言葉を伝えたが、ケリーは元からペテン師として耳を切り落とされたほどの悪党であった......彼の性癖がこのころからどんどん姿を現してくる。
しかし、エノク語によってますます天使を信じたディー博士はとっぴょうしもないケリーの話を信じてしまう。
ケリーはディーが名声のある博士で、財もなしていたことをいいことに、天使のおつげといって金銭をかすめとることが何度が続いたあと、今度はディー博士の美しい妻に目をつける。
ここでケリーの出したおつげはこうだ。
「お互いの妻を交換せよ。」
常識では信じられない話だが、ディー博士は天使の言葉に我々には想像つかないほど心酔しており、ケリーのこのお告げを信じてしまう。
これが原因でディー博士は妻と離婚し、その後の人生も悲惨なものになっていく。
これでも懲りない欲深いケリーは、今度はディー博士の名声を利用し各地の貴族に「魔術で金をつくるまで」と巧みに交渉し大金を騙し取ったのだ。
これがあだとなり、いつまでたっても成功しないディー博士らに業を煮やした貴族たちは、火刑台を立て彼らを捕まえようとしたのだ。
その後、ディー博士はイングランドに逃れ、村の占い師としてひっそりと屈辱の余生を過ごすことになる。
一方のケリーはドイツで逮捕され、牢獄の窓から飛び降りて死んでしまった。
●エノク語について
エノク語は、19世紀末まではただのたわごとの言葉と思われていたが、「黄金の夜明け団」という魔術研究組織によって脚光を浴びる。
その後、近年の言語学者らが、この言葉をコンピューターで解析した結果、エノク語は一定の文法法則を持った言語ということがわかったのだった!
はたしてどこの言葉なのだろうか.......
次は錬金術師の一人を紹介します。
●ニコラ・フラメル
14世紀フランスの書籍販売業者であったフラメルは、「アブラハムの書」という古代錬金術(あやしすぎる)の書から黄金の製造法を知り、多量の黄金を製造したそうだ。
1357年のある夜、彼は奇妙な夢を見た。
夢の中に天使が現れて、一冊の本を彼に差し出しこういったのだ!
「この本を見よ!これはお前にも、他の誰にも理解することのできない本だ。しかしお前はいつの日か、ほかの誰にもわからない秘密をここから発見するだろう」
そして、この夢から数日後、アラブ人のような焼けた肌のみずほらしい格好をした男性が彼の店を訪れた。
そして、フラメルが夢で見たのと瓜二つの本を見せて、金2フロリンで売り渡したのだ!
その本は、フラメルにはまったく理解できない古代言語で書かれていて、意味のわからない暗号のような絵がいくつか出ているものであった。
21年の月日がたっても。書物の解読は全然進まなかったが、ある日フラメルはふと、あることを思いつく。
この本がユダヤの始祖アブラハムによって書かれたものなら、もしかしたらユダヤ人ならこれを読めるかもしれない!
そこで彼は、1379年、スペイン巡礼の旅に出る。じつは書物の謎を解く手がかりを、当時スペインに大勢住んでいたユダヤ人学者たちに求めようとしたからだったのだ。
予想どうりというかなんというか、21年たっても全く解読できなかった文章の手がかりがユダヤ人学者からもつかめるはずもなく、彼はがっかりして帰路につく。
しかし、その帰り道でカンチェスというユダヤ人のカバラ学者に出会ったのだ。
カンチェスによると、フラメルの持っている書物は、金属変成の象徴を書いたものだという。そして、カンチェスはフラメルの持っている書物を見るためにパリへ同行しようと申し出てくれたのだ。
しかしながら、カンチェスはパリへ戻る途中にこの世を去ってしまう。
彼の死の直前に、彼はフラメルに卑金属を金や銀に変える「賢者の石」の秘密を教えたという......(あやしいあやしいぞ............)
その後、隣家のユダヤ人が彼の店を訪れた。なんのためだったのかというと、ユダヤ人の迫害を避けて移住するので財産を預かってほしいというのである。
これと前後して、フラメルはついに賢者の石の造出に成功したらしい。半ポンドの水銀を純銀や純金に変えたというのだ。
この頃を境に、急速にフラメル家は裕福になっていくのだが、亡命ユダヤ人から譲られた遺産のおかげか錬金術のおかげかは定かではない。
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