役に立たない歴史雑学
うみ
第1話 ギリシャ神話は古代の人の想像の産物
このタイトルの言葉......何も現代の人がいった言葉じゃありません。
これは、まだキリスト教絶対の時代のヨーロッパでも言われていた言葉です。
なぜこのような言葉が出てきたのかを主観的に考察してみます。
キリスト教とギリシャ神話の違いを簡潔に述べると、一神教か多神教かの違いがあります。
多神教は古代より語り継がれ、自然発生的な宗教です。(日本の神道のように)
元来一神教というものは、他の宗教への寛大性はあまりありません。特にキリスト教は異教徒に対し非常に厳しい態度を取ってきました。
それは古くには敵対した民族の神を悪魔として取り込むことで......例えば、ローマと敵対したカルタゴの神バールはキリスト教のローマでの国教化の後、一級の大悪魔となっています。
中世になると、欧州地域ではキリスト教以外が駆逐されましたので、他の地域の異教徒――例えばイスラム教徒などを排除しようとやっきになりました。
キリスト教は宗教という特性上、政治勢力・時の権力者によって利用されます。権力者は自己の権威つけのため、支配の正統性を確保するために宗教を利用しました。
大航海時代には、キリスト教の中でプロテスタントが生まれ、プロテスタントは旧勢力のカトリックを批判していました。この旧勢力・既存勢力の批判に飛びついたのが、力をつけてきた新興勢力の有力者たちでした。彼らはプロテスタントを利用し、既存権力をひっくり返すことに利用します。
また、民衆レベルでは敵対勢力を異端と認定することで、排除するなどしてキリスト教を利用しました。
このように、キリスト教は少なくとも発生から大航海時代まで他宗教への寛容さはほとんどなく、同じキリスト教内でも派閥によって異端認定をお互いにするなどして、排他的な傾向にあるといえました。
そんな中、古来の宗教であったギリシャ神話はキリスト教と対立することなく、むしろ中世ルネッサンス期には様々な著名な画家によってギリシャ神話の神々は描かれるなど好意的に受け止められていました。
なぜ、ギリシャ神話は例外的にキリスト教世界で寛容さをもって受け入れられたのでしょう?
それをとらえるには、まずギリシャ神話の特徴を捉えないといけません。
「神々が存在するのかしないのか、我々には知りようもない」
これは、古代ギリシャの思想家(ソフィスト)の一人、プロタゴラスの残した言葉です。自ら信じる神々に対して、このような言葉が出ることがギリシャ神話の特徴と言えます。
(キリスト教ではこんな言葉が出ようもありません......まず神ありきです。疑いようはありません)
ソフィストたちにとっては、神々もまた修辞や議論の為の道具でしかなかったと言われています。
このように、ギリシャ神話は思想に対する縛りがあまりなかったことが特徴です。
また儒教のように、一種の哲学的な思想という捕らえ方もできます。(神への絶対的寄与といったキリスト教的宗教観とは真逆の位置にあります)
ギリシャ神話の世界は、当時の若者にとって「理想社会」のモデルの象徴だったようです。
このようなギリシャ神話の特徴がキリスト教世界に受け入れられた一つの理由だったと主観的に考えています。
次に、キリスト教が受け入れられたローマを見てみましょう。
ローマは、ギリシャ文化圏であったヘレニズムを征服しました。当時ローマの信仰していた宗教もまた多神教で、宗教的慣用性はありました。
これまで質実剛健であったローマでしたが、ギリシャ文化圏を取り込むと彼らの生活は一遍します。
成熟したギリシャ文化は、当時地中海世界において、世界最高水準の高い成熟度を持っていました。支配されたギリシャに対し、ローマはまるで被支配者であるかのようにふるまい、ギリシャに教えを乞い、ギリシャ文化に傾倒し、積極的に取り入れ、ローマの各地にギリシャ風の建築物を建てました。
カルタゴを絶対に滅ぼすべしと強硬に主張した大カトーは、ギリシャへの危険性もまた指摘しています。(この指摘は、ポエニ戦争後の英雄スキピオ家への対立もあったかもしれませんが......。スキピオ家はギリシャに傾倒し、ギリシャ風をとかく好んだといいます)
最終的に、ローマはギリシャ文明に征服されることになります。
さて、文化的に征服されたローマ文明。宗教面ではどう変化したのでしょうか?
それは、彼らが元々持っていたローマ神話を改変し、さらにはギリシャ神話の神々も全て許容することで、ギリシャ神話は全く敵対対象とはなりませんでした。
次に時代が下って、キリスト教が国教になり、ローマが滅びた後もその後の民族は、キリスト教化されます。この時代になると、ギリシャ文化=ローマ文化=キリスト教文化となっています。
キリスト教は他の神々に寛容ではありませんでした。しかし、彼らの文化の源泉はギリシャ文化です。そこで、ギリシャ神話の上記の特徴が生きてきます。
すなわち、ギリシャ神話とは信仰の対象ではなく、すばらしい物語であると......
ここで、タイトルの言葉に戻ります。
「ギリシャ神話は古代の人の想像の産物」
中世・大航海時代の人々にとって、ギリシャ神話の宗教的側面は全くなくなり、キリスト教と何ら対立するものではないと解釈がなされ、キリスト教世界で受け入れられていたのです。
さらには、ギリシャ文化がヨーロッパ文化の元となったことで、他とみなされず排除対象にならなかったことも大きな要因です。
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