傲慢と偏見とたらこ
@KOTAMARO
第1話 傲慢と偏見
「傲慢と偏見?」
初めて聞くフレーズに、思わず近藤大河は聞き返した。
「そうそう。傲慢と偏見。イギリスの小説だよ」
コンビニの前でジャンプを読みながら健太郎は答えた。
カラスが鳴き始め、夕日が沈みかけていた。
コンビニにはまだ体力の有り余っている中学生、学校帰りだと思われる高校生。疲れた形相を浮かべているサラリーマンなどで混み始めていた。
「傲慢と偏見がどうしたっていうんだよ。」
ジャンプに集中して、イギリスの小説だということしか教えない健太郎に近藤大河は嫌気がさしていた。
健太郎はしょうがなくといった素振りでジャンプを閉じると、近藤大河の目を見て静かに言った
「響き、よくない?」
健太郎は倒れこんだ。自分が殴られたんだと気づくのはそれから間もなくのことだった。
「お前が傲慢と偏見について話したいことあるっていうから2時間かけてチャリでこのコンビニまで来たのに、それだけかよ!ラインでいえよ!」
近藤大河は倒れている健太郎の胸ぐらをつかみながら怒鳴った。
高田健太郎は笑っているだけだった。
数分もめているとコンビニから出てきたサラリーマンが二人を見つけ、止めに入った。
「君たち!喧嘩かい?やめたまえ!話し合いで解決できないのか!なんでも手を出せばいいってもんじゃないんだぞ」
近藤大河は立ち上がり、そのサラリーマンに問いただす
「おっさんよぉ、傲慢と偏見って小説知ってるか?」
サラリーマンは少し考え丁寧に口を開いた。
「知らないが、響きがとてもいいな。」
サラリーマンは倒れこんだ、自分が殴られたんだと気づくのはそれから間もなくのことだった。
「お前もかよ!知ってるか知ってないかを聞いたんだ!響きの問題は今どうでもいいだろう!」
大河は倒れているサラリーマンの胸ぐらをつかみながら、再度怒鳴った。
サラリーマンは笑っているだけだった。
また数分もめていると学校帰りだと思われる高校生がコンビニから出てきて、サラリーマンに怒鳴っている近藤大河を止めに入った
「何してるんですかあなた!カツアゲですか!よくないですよ!警察呼びますよ!」
すると近藤大河は立ち上がり、高校生に問いただす
「わらべ、傲慢と偏見って小説知ってるか?」
高校生は間もなく答えた
「知りませんよ!でもなんか、響きがいいですね。」
高校生は倒れこんだ、自分が殴られたんだと気づくのはそれから間もなくのことだった。
「お前もかよ!!!!!知りませんでいいだろう!響きは今問いただしてないだろう!そんなに響きもよくないだろう!」
健太郎が背後で笑っていることに気がついた近藤大河は素早く振り返った。
「何がおかしいんだ?」
健太郎は言った。
「人をすぐ殴るな。それに、いい小説だと思うぞ、有名だしな。」
近藤大河はまた健太郎の胸ぐらを掴み怒鳴る
「響きだけだろ!どうせ!いい小説でもなんでもない!くそったれだ!」
健太郎は不気味な笑い声で大笑いした。コンビニにいた中学生がこわがって泣き出すくらいに。店員もレジの下に隠れて様子をうかがっている。カラスの鳴き声はもうしない
空には星空、満月が照らされていた。
笑い終えると、健太郎は大声で言った。
「そのすぐ人を殴り、うえから罵しる、まさに傲慢!いい小説でもなんでもないと決めつける、まさに偏見!全て、君のことだ。近藤大河、傲慢と偏見、どうだい?響きがとてもいいだろう?」
「もういい俺は帰るからな」
近藤大河は自転車で帰ろうと試みた。
しかし、置いたはずの自転車が見当たらなかった。
代わりに、自転車を置いた場所には一切れのたらこが置いてあった。
「俺の、自転車が、ねぇぞ。たらこしか、ねぇぞ。」
振り返るとそこには誰もいなかった。倒れていたサラリーマンも、高校生も、
健太郎も。
「おい!どこいった!出てこい!なんでたらこが置いてあるんだ!おい!おい!」
ここで目が覚めた。
「大河くん?うなされていたわよ」
近藤なつきが心配そうな目でこちらを伺っている。
近藤なつきは女手一つで大河を育てているいわゆるシングルマザーというやつで、昼は教師、夜は居酒屋の女将をしている
「夢か、悪夢だ。傲慢と偏見?なんだそりゃ」
「大河くん、熱があるんじゃない?大丈夫?」
「大丈夫だよ母さん。学校行かなくちゃ。」
朝ごはんを済まし、身支度を整えると家を出た。
大河が通っている高校は家から10分ほどの都会の真ん中にある進学高。
近藤なつきはその高校のOGである。
チャイムと同時に教室に入ると早速健太郎が近藤大河の肩に腕を回して朝から大きな声で叫ぶ
「おっはよーう!今朝ジャンプ読んだんだけどさ、ビッグマムってさ!」
「朝からうるさいし、ネタバレするんじゃねえよ。それにお前昨日のはなんだよ」
「昨日?俺なんかしたか?」
「あ、いや、ごめんなんでもない。」
教室のドアが開き、先生が入ってくる。
先生はダンボール箱を抱えている。
すると学級委員の小沢が号令をかけ起立礼をして、朝の学活が始まる。
「知っての通り、今学期から朝読書というものが始まります。学校指定の本を朝に音読するんだ。今からその本を配るから、後ろに回してくれ」
先生がダンボール箱から本を取り出し最前列の生徒に配り始める。
自分にもその本が渡ってきた。そこで近藤大河は目を疑った。
「ご、傲慢と、偏見」
「そうだ近藤。傲慢と偏見。イギリスの小説だ。これを今学期から読んでいくから、自分でも読んでおくように。朝読書は早速明日から始まるからな。わからない漢字は自分で調べておけよ。朝学活はここまでだ。10分後、移動教室。」
あの夢は正夢なのかと近藤大河は呆然と本を眺める。
「何ぼさっとしてんだよ。先行くからな、二階の教室だぞ」
健太郎が廊下へ走っていく。
つられてクラスメイトたちが二階の教室へ向かうべく自分たちの教室から出て行き、教室には近藤大河が一人、取り残されていた。
「考えてても仕方がないな。とりあえず二階向かうか」
教室を出ようとした時背後から声がした。
「傲慢と偏見ってさ、響きいいよね」
自分しか教室にいないと思っていた近藤大河は驚き振り返るとその先には近藤大河が密かに憧れている田中苺がいた。
「田中さん、驚かせないでよ。」
「うふふ、ごめんごめん寝坊して朝寝てたら置いていかれちゃってさ、でさ、この本、傲慢と偏見。響きがすごくいいと思わない?私、この響きめちゃくちゃ好きかも」
近藤大河はそれを聞いて笑顔で答えた
「俺も、そう思う」
続く
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