0-F
吸血鬼の少年と少女が山に逃げてから、二日目の朝。
二人のいる小屋は、ある企業の私兵によって包囲されていた。
黒のスーツに
彼らはそのまま小屋に突入したりはせず、外から爆弾を設置し、いざとなれば太陽光で二人を焼き尽くす準備をする。
そうした念の入った工作で、吸血鬼達が逃げられないようにした上で、小屋の扉が開かれた。
入って来たのは白衣を着た初老の男で、とある研究所の責任者と名乗るその人物は、吸血鬼達にある提案をする。
「君達の安全は保証しよう。その代わり、君達の体を調べさせて貰えないか?」
それはお願いではなく、分かりやすい脅迫。
断れば命が無いのは明白と知り、少年は歯噛みをしながらも、提案を受け入れざるを得なかった。
少年自身も死にたくはなかったし、なにより、愛する少女を殺させる訳にはいかなかったから。
――彼女には手を出さないと誓えっ!
そう叫んだ少年に男は不気味な笑みで頷き、用意させていた棺桶に二人を入れると、トラックの後ろに乗せて連れ去った。
こうして、小さな盆地にある
狩人協会日本支局は大元の
支局長解任の噂さえ立った失敗の裏に、どのような暗躍があったのかは知れない。
ただ、日本支局は八名の部下を失った代わりに、それを超える有能な異能者を一名、手に入れた事だけは確かだった。
この凄惨すぎた事件は、協会と政府の力を持ってしても隠しきれず、高雛を中心とした周辺では、しばらくの間ワイドショーを騒がせる事となる。
しかし、それも全国に放送される事は無く、犯人の男(三十五歳、会社員)が捕まり留置場で自殺した、という偽報道を切っ掛けに、いつしか沈静化していった。
今では被害者の親族達さえ話題にしない、高雛町大量殺人事件。
その三十五名の死者と二名の行方不明者の中に、勤勉だった少年の名は無い。
いつしか町民達の記憶も薄れ、狩人協会のファイルにしか残らなくなったその事件が、また再び動き始めるまでには、それから七年の歳月を必要とする。
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