0-C

 家族を皆殺しにしたその日に、僕は前から練っていた計画を実行に移した。


 ――僕を虐めて虚仮にし、扱き使ってきた愚者共に天罰を下してやるんだっ!


 馬鹿なクラスメートと無能な教師達の住所は前から調べてあったし、あの日僕を襲った不良共は、ゲームセンターにたむろしている所をまとめて見つけたから、計画はあっさりと遂行出来た。

 夜の闇を駆け、一人一人酷たらしく殺して、死体は公園に晒し者にしてやる。


 ――宿題を押し付けた男子は砂団子、悪口を言った女子はブランコに吊るし、怒鳴り付けてきた教師は首をサッカーボールに、不良共は仲良くジャングルジムに磔だっ!


 奇しくも今日は満月、魔の蛮行が祝福される聖夜。

 一度警官に見付かってしまったが、助けを呼ぶ間もなく殺してやった。


 ――国家権力さえ今の僕は止められない。さあ、お姫様を迎えに行こうっ!


 興奮に息を切らせながら、僕は何度も何度も外から窺った彼女の家へ赴く。

 玄関の鍵は家から持ってきたナイフで切り壊し、初めて彼女の家にお邪魔する。

 家の中にいた彼女の両親は勿論、徹底的に殺してやった。

 離婚をして彼女を苦しめていた事は知っていたから、これはその罰なのだっ!

 そうして、僕は安らかに眠っていた彼女を制服に着替えさせると、抱えて公園に連れて行く。


 ――これから僕らの卒業式、人を辞めて遙かな高みに上るこの聖夜、素敵なドレスが無いのは残念だけど、学生の僕らには制服の方が似合っている。


 彼女の美しい肌を腕に感じ、今直ぐむしゃぶりつきたい衝動を我慢して、僕は血濡れの式場に到着する。

 公園に着いてようやく目を覚ました彼女は、状況が理解出来ずに軽いパニックになってしまったので、僕は優しく言い聞かせた。


 ――さあ、君はこれから生まれ変わるんだ。ほら見てよ、クラスメート達も僕達を祝福しているよっ!


 僕は胸を張り、彼女の為に捧げられた生け贄の群れを指差す。

 公園を包む大量の死に、彼女は数瞬呆然とし、それが何か理解するのと同時に、胃の中の物を吐き出してしまった。

 胃液と涙を流して苦しむ彼女に、僕はその背中を優しく撫でて、安心させようと声をかけて上げる。


 ――大丈夫、直ぐにあの男も同じようにしてやるからね?


 僕はそう優しくあやす――なのに、彼女は全身を震わせ、あらん限りの声で叫んだ


「止めてっ! ――ちゃんに酷い事しないでっ!」


 その言葉が頭に響いた瞬間、僕は彼女の首に噛み付いていた。


 ――汚してやる、あんな男には渡さない、君は僕だけのモノなんだっ!


 彼女の血を半分吸い、僕の血を半分流し込み、僕達は溶け合って一つになる。

 長い長い儀式を終え、ふと顔を上げて見ると、そこには何故かあの男がいた。

 呼ばれてもいないのに、わざわざ自分から出て来たのか?

 これが運命の計らいなら、神様はたいそう悪趣味だ。

 僕はあまりに可笑しくて、彼女を投げ出して大笑いする。


 ――そうだ、お前は殺してなんかやらない。

 ――死なんて、一瞬の苦痛で許してやるものかっ!

 ――彼女が僕に奪われた事を永遠に妬み、苦しみ藻掻き老いてゆけっ!


 あの男が無様に地に伏し、啜り泣きを上げる中。

 僕は満月に届けとばかりに、ただただ笑い続けた。

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