3.静かなる剣豪、森を迷いて出会い殺し合う




私は朝の日差しを全身で浴びつつ、しかばねのない場所で体をほぐしていた。



「くぅ~、うむ、この体でも朝起きるのは大丈夫そうじゃな」



体の節々ふしぶしに異常がないのを確認し、グッと足に力を込める。



「して、そろそろ本格的にここから抜けるとするか、のっ!」



言葉の終わりと共に走り出す。

私は地を蹴り、木々の合間をうように走る……のではなく、木々を刀で斬り飛ばしつつ進んでいく。



「ホホホ、久々じゃのうこんなに自由に走るのは!」



ズゴォンッ、ドォンッという飛ばした木が落ちる音を後に、途中にいる獣たちを一緒に斬り殺しながら無音で駆けて行く。


その光景はまさしく、『死神』と表現するのが正しいだろう。

森の命である木をその刃で刈り取り、通り去った後には獣の死体と血のカーペットがひかれている。



そうして数時間後、無理やり斬り飛ばして広げた広場。

私は水気で湿った切り株に、腰を落ち着けて休んでいた。



「ホホホ…これだけ走って森を抜けられぬとは……中々に広いものじゃのぉ」



あまりの広さに、もうここで暮らしてもよいかと感じるわい。


ほうけながら空を見上げていると、視界の端を妙なものが横切った。



「犬の獣。じゃがなぜじゃ……生きておらぬ上に、この”不快感”は…」



見た目は他の犬の獣とさほど変わらない。

強いて言えば、毛並みが薄い灰色で、手入れされたかのように綺麗なことのみだろう。


すこし様子を見てみようと、わざと音を立てて立ち上がると、あちらも私に気づいたようだ。



「シャッ!」



ガキィンッ!



「ホホホ、血の気の多い獣じゃて」



広場に鳴り響く甲高い音、抜き放った刀と獣の牙が鍔迫り合い、ガチガチと不快な音が至近距離で聞こえる。



「……不快じゃの」



腰を一瞬落とし、すぐさま数歩横にズレる。

迫り合いのために力を込めていた獣は、鼻っ面から地へと突っ込む。



「ふむ、無様じゃな」



ゆらゆら、ゆらゆらと、自身の身を後ろへ引いていく。



「ルガァアアア!」



その私の動き方を挑発と捉えたのか、獣は大口を開けてこちらに迫る。



「眠るがよい」



地を蹴り、一気に距離を詰め、大口を開けた獣の首を横から斬り飛ばした。



「……結局、この不快感はわからぬか」



崩れ落ちた巨体を横目に、刀を納めその場を去りゆく。



「ああ! 私のお人形さんが! ああぁ…」


「…ぬぅ?」



が、不意に少女がトコトコと走ってやってきた。



「あーあ、お気に入りだったのにぃ…これじゃあ直せないや」



獣に手を添えて物騒なことを呟く少女。

その少女を”視た”途端――異常なまでに膨れ上がった不快感、それに全身を包まれるような感覚におちいった。



「ハハハ…なるほど、不快感はこれか……これほどまでに濃密な”死の香り”、実に久しいぞ!」



体の底からフツフツと、私の全てが尖っていく。

そして私は…”俺”は、尖り”きった”。



「お兄さん、アリスのお人形になって?」



少女がこちらを向いたと同時に、背後から無数の獣が躍り出てくる。



「……クッハハハハハァ!」



無数に襲い掛かってくる獣達めがけ、刀を抜いて突き進む。


そしてなんの感慨も無く、最前にいた獣を斬り殺し、一瞬動きを止めた近くの獣の首を斬り落とす。

反撃を試みる獣の攻撃を掻い潜り、カウンター気味に首を斬り飛ばし、その死体の血をわざと飛ばしてまた隙を作り、一番近くにいる獣を斬り殺す。


次々と襲い掛かる獣達。

その”首を”確実に斬り飛ばしていき、広場を血で染め上げていく。


流れる水のように獣達の間を抜け、まるで踊りでも踊るかのように舞い、一太刀で獣達を死へとす。



数分後、そこはあの場所と同じく、死が溢れかえった空間と化していた。



「お兄さん…アリスのお人形…!」


「…ハハハ、正直な殺意だな」



目に涙を溜め、奇形のぬいぐるみを手にこちらを睨んでくる少女。

その身から溢れ出る黒い殺意を前に、俺は心が躍るのを抑えられなかった。



「さて、始めようか……純粋な殺し合いを」



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