中二病探偵事務所

ユウやん

第1話 発端

暗い路地を若い女性が帰宅の為に歩いている

時刻は夜11時を過ぎていた

コツンコツンとヒールが地面に当たる音が不気味に響く


「………はー、またなの……。」


女性はそう呟くと歩みを止め振り返る

振り返った先には街灯に照らされた路地が続いているだけだ

人っ子1人どころか人影すら無いのに、女性はその路地に向かって叫ぶ


「いい加減にしてよ!!毎晩、毎晩後を付いてきて!!姿を見せなさいよ!!」


返事は当然返ってくる筈もなくただ女性の声だけが響き渡る


「もう、勘弁してよ……。」


先程とは違い、力なくそう吐き捨てたのであった







「おはようございます、先輩。」


1人の女性が気怠そうにドアを開けながら入ってくる


「ハハハ、我が眷属よ。今日も我の偉大なる野望の為出向いて来るとはご苦労。」

「………。」


高笑いをしながら椅子に腰を掛け、今入って来た女性に痛い事を吐く男性に向かって女性は冷たい視線を向ける


「お、なんだなんだー。我に反抗すると言うのかー?眷属のくせに生意気だなー、黒咲よ。」

「いえ、今日も先輩は元気だなと思っただけです。決して先輩はいつも通りバカだとか、痛い人だなとかは思ってませんよ。」

「うむ、我は常に元気だとも。……って、ちょっと待て。今、我を愚弄したか?」

「いいえ、してませんよ。先輩。」


彼女、黒咲くろさき 弥生やよいは投げやりに返事を返しながらソファーに座りテレビをつける

コンビニで買ってきた珈琲を飲みながらニュースをただ眺める


「先輩、仕事の依頼何か来ましたー?」

「今我はこの世を混沌に落とす為忙しい。」

「…来てないのですね。先輩、依頼の一つでも取ってきて下さいよ。今月に入って1件も依頼が無いって、給料どうするのですか?なしは嫌ですよ。」

「眷属が行けば良いではないか。」

「はぁあ?ここは先輩の事務所なんですから、先輩がなんとかしてくださいよ。」

「何をぬかすか、雑務などをこなすのは眷属の務めであろう。何故主である我がそのような事をせねばならんのだ。」

「その主が働かないからこっちはバイトで自分の生活費とここの維持費をなんとかしてるのですよ!流石にキレれますよ!!」

「黒咲、キレれますよって言ってキレてる、キレてる。」

「誰のせいですか!!」

「す、すみません……。」

「はぁ……。まったく。」


そう溜息をついて黒咲がテレビに目を移した瞬間。


コンコン


控え目なノックが事務所に響く。


「「…………。」」


いつぶりか分からないぐらい久々のノックに反応出来ない2人。


コンコン


再度ノックがされる。


「はーい、今行きまーす。」


返事をした黒咲は、動かない先輩を睨みながらもテレビを消しドアに向かう。


「はーい、新聞の勧誘なら間に合ってま…す…。」

「すみません、ここって探偵事務所で大丈夫でしょうか?」


ドアを開けた先には眼から光が失せ、ボサボサになった髪の毛の状態で1人の女性が不安そうに立っていた。

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