第2話
手を出すな、と英は二人を制する。しかし青嵐は、大きく跳躍した。一気に屋根まで駆け上がると、あっという間に歩を詰める。
英はさっと手を上げると、周りの男たちに、女子供を連れて離れるように指示を出した。民から人気の高い英の声を聞くや、男たちは女子供を庇いあい、じりじりとさがっていった。
その間にも、青嵐は袋小路へと白猫を追い詰めていく。
英が先回りして待ち構えていると、追い詰められた猫が飛び込んできた。英の姿を見て、猫は進路を変えようとする。スピードを緩めたところで、青嵐は捕獲しようと手を伸ばした。しかし。横から身体に衝撃が走る。青嵐は呻いて、二、三歩下がった。
「青嵐!」
駆け寄ろうとする黎を、青嵐は手で制す。
「来るな!」
衝撃を与えた主は、白猫を守るように間に立っていた。頭からつま先まで、灰色がかった白い布のマントを羽織っている。深くフードを被っていて、顔はよく見えない。しかし、英と青嵐にはその相手が何者か身に染みてわかっていた。
「
そう言って、腰に下げていた短剣を取り出し、青嵐に切りつけた。青嵐も短刀を構えて斬りあいが始まる。しかし、英が加勢しようとしているのを見て、分が悪いと察したのか、剣で青嵐を大きくはじくと走り去った。白猫がその肩に飛び乗る。
「待て!」
青嵐が追う。その向かう先には黎がいた。黎の顔が強ばっているのが見える。まずい、と青嵐はありったけの力を込めて走った。足が自分のものでないくらいにぐるぐると回る。少しでも早く。そう念じて手を伸ばす。しかし、黎に到達する前に、一陣の風が大きく吹き抜ける。ほんの一瞬、視界が奪われた。次の瞬間、一人と一匹の姿は綺麗に消えていた。
「くそっ」
行き場を失ったエネルギーは、すぐには止まれず、青嵐は黎にぶつかる。二人はごろごろと転がって、ようやく止まった。
「悪い」
青嵐は体を起こすと、目を回している黎をゆっくりと助け起こした。黎は手を借りて起き上がる。青嵐が抱え込んでくれたおかげで、ほとんど痛みはない。黎が無事なのを見てとると、青嵐は辺りを見回す。しかし、両脇の塀もその上から見える木々も、先程の喧騒が嘘のように静かだ。悔しがる青嵐に、英は近づいて肩を叩く。
「深追いは危険だ。よく民を守ってくれたな」
「ありがとう。すごいね青嵐は」
黎は手で服をぎゅっと握りしめていた。英は、今度はそれを元気づけるように黎の背を叩く。黎は恥ずかしそうに笑んだ。
「さ、戻ろう。俺は今の件を報告してくる。二人はそろそろ時間だろう。黎、青嵐を案内してくれ」
黎はわかりましたと頭を下げた。顔を上げて青嵐を見る目は尊敬に満ちていて、青嵐は恥ずかしそうに目をそらした。
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